自宅に踏み込まれ,逮捕され,取材テープを押収されたイラク人ジャーナリスト
http://media.guardian.co.uk/site/story/0,14173,1682208,00.html
今回強制捜査を受け一時的に身柄を拘束された上,取材テープを押収されたアリ・ファディルさんは,2004年11月のファルージャ攻撃の直後にファルージャに入り,その取材を1本の報道フィルムにまとめた医師/ジャーナリストだ。このフィルムは,2005年1月に英チャンネル4で放映された。
→そのときの当ウェブログ記事と,フィルムの概要(@いけだの個人サイト)と,フィルムからの画像(@ガーディアン)。
※このときにガーディアンに出た記事は,そのときは日本語にする作業まではできなかったのだけど,今から数ヶ月前にようやく日本語にしたので,後でアップロードします。(9割できたところで止まっている。)
逮捕されたときに押収されたテープは,ファルージャのフィルムと同じ制作会社&テレビ局のために制作していた番組のための取材テープ。資金関連の取材だったという。
米軍が踏み込んできたとき,ファディルさんは妻子と一緒に眠っていた。そのときの様子を彼は「米軍は私たちが寝ている部屋の中へと(into)発砲した。兵士が3人入ってきて私を床の上に転がし,両手を縛った。何を探しているのかと尋ねようとしたら,ただ『黙れ』と言われた」と語っている。Fadhilさんは数時間後に釈放されたが,押収されたテープは返却されていない。
1月9日のガーディアン記事より(原文の下に対訳):
Dr Fadhil is working with Guardian Films on an investigation for Channel 4's Dispatches programme into claims that tens of millions of dollars worth of Iraqi funds held by the Americans and British have been misused or misappropriated.
The troops told Dr Fadhil that they were looking for an Iraqi insurgent and seized video tapes he had shot for the programme. These have not yet been returned.
The director of the film, Callum Macrae, said yesterday: "The timing and nature of this raid is extremely disturbing. It is only a few days since we first approached the US authorities and told them Ali was doing this investigation, and asked them then to grant him an interview about our findings.
"We need a convincing assurance from the American authorities that this terrifying experience was not harassment and a crude attempt to discourage Ali's investigation."
ファディル氏はガーディアン・フィルム制作のチャンネル4の番組Dispatchesに関わっている。米英が押さえている数千万ドル相当のイラクの資金の使途が誤ったものだったとか流用されたとかいった話について,調査を行なっていたのである。
米軍はファディル氏に対し,イラク人反乱者を捜索中だと告げ,当該の番組のために彼が撮影したビデオテープを押収した。テープはまだ返却されていない。
このフィルムのディレクターであるカラム・マクレーは昨日,次のように語っている。「今回の強制捜査はタイミングといいその性質といい非常に気がかりなものです。私たちが米当局に連絡をし,アリがこの調査を行なっていると告げ,発見したことについてインタビューをする許可をとお願いしてからほんの数日で行なわれたものですから。米当局から,今回の恐ろしい経験はいやがらせではなく,アリの調査を断念させようとしたわけでもないということを,はっきりとした形で保証してもらわなくてはなりません。」
以下は,強制捜査と逮捕のことを書いたファディルさんの記事@ガーディアン(1月11日)。
The night the Americans came
Ali Fadhil
Wednesday January 11, 2006
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1683741,00.html
【大意】
先週末,米軍特殊タスクフォースが私の自宅を強制捜索した。この2年半の間にインタビューしたイラク人たちから何度も聞かされていた通りの,恐ろしい経験だった。妻のジーナは,まるでハリウッドのアクション映画の一場面のようだと言った。
土曜日の深夜12時半だった。うちには3箇所入り口があるが,その3枚のドアが爆発物で吹き飛ばされた。爆弾だと思った。しかし,寝室のドアにライフルが覗くや,数発でたらめに打ち込んだ。そしてうちの寝室は,米兵の立てる騒々しい音で満たされた。
3歳になる娘がおびえて目を覚まし,私に体を押し付けて「パパ! アメリカ人だよ! パパ,連れてかれちゃう! やだ,やめて」と叫んだ。娘は米兵に何か言おうとしたが,泣いてしまって言葉にならなかった。米兵に何も言えない娘は私にやだやだと言った。娘を落ち着かせようとしたところ,私は米兵に組み伏せられ,縛られた。
米兵らはそれから私を階下に連れてゆき,居間に座らせ,うちにあった家具をすべて粉砕した。家の中には20名ほどの兵士がおり,屋根には警備のために数名がいた。青い目をした大尉が私のハンディカムを持ってきて,攻撃的な調子で「この映像がなぜおまえのところにあるのか,説明してもらいたい」と言った。
「チャンネル4の番組を制作しているので。悪意からのものではありません」と私は説明した。
しかし相手はそれでは満足しなかった。大尉は非常に重要な証拠を見つけたと思っているようだった。フードをかぶせられ手を縛られて,私は装甲車両に連行された。
どこかに連れて行かれたが,どこなのかはわからない。車の中でずっと,占領が始まってからのこの2年どんなことが起きたかと思い出していた。こういうことが起きていると,それはもう何度も聞いていたのだ。自分でそういう目にあい,私もまた恥と屈辱を感じていた。西部のスンニ派が抵抗は正当なものだと考える理由となっているのは,こういった種類の,他人の家のプライバシーの軽視なのだ。部族社会の人々はこういうことはひどい侮辱であるとみなしている。
ようやく目的地に到着すると,2メートル四方の小さな部屋に入れられた。壁は木で,真ん中に冷蔵庫と楕円形のテーブルがある。すぐに2人の男が入ってきた。ヴェストを着ていて,軍人ではない。「さてファディルさん,ここに連れてこられた理由はおわかりですか?」と問われた。
「尋問されるためでしょう?」と私は答えた。
朗らかな笑みを浮かべてひとりがこう言った。「いいえ。住所に間違いがありまして。損害を与えたことをお詫びします。」
ということだ。爆発物で3枚のドアを吹き飛ばし,窓を割り,家具をすべて破壊して車をだめにして,家の中ででたらめに発砲して私たちの命を危険にさらし,私にフードをかぶせ,二度と会えるかどうかもわからない家族から私を引き離し――そして,にっこり笑って,ちょっとした間違いで,と言うのだ。
ではこれは脅しなのか,それとも弾圧しようとして不手際に終わった典型例なのか? 私にはまったく判断がつかないことだが,取材テープはまだ返却されていない。私にはっきりわかっているのは,今回の件が娘にどういう影響を与えたかということだ。娘は兵隊という兵隊を忌み嫌い,イラク兵であってもアメリカ人と呼んでいる。あんなことがあった以上,娘の気持ちを変えろと言っても無理な話だ。こんにち,同じように感じているイラク人は――イラク人はサダムの失墜を歓迎したのだが――多くいる。
こういうとき,何て思ったらいいんですかね? 「ご本人とご家族がご無事でよかったです」? 「番組,期待してるので制作がんばってください」?
パキスタンでアルカーイダ幹部を標的としたはずの米軍の攻撃で,関係のない村人18人が殺されたなどということもありましたが(BBC記事),2003年にムチャクチャだと思ったことが,2006年にはなくなるどころか,ノーマルなものになってきています。
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1月11日と12日には,英軍の高級将校(Brigadier)が,米軍の雑誌『ミリタリー・レビュー』において,「米軍には制度的に人種差別がある」と批判したという記事がメディアにたくさん出ました。以下は英メディアのものだけですが,オーストラリアでも米国でも多くの記事が見つかります(Google Newsによる)。
- http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1684561,00.html
- http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2006/01/12/...
- http://www.timesonline.co.uk/article/0,,7374-1981557,00.html
- http://news.scotsman.com/uk.cfm?id=53212006
- http://www.mirror.co.uk/news/tm_objectid=16575969...
- http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/story.jsp?story=675587
- http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4603136.stm
一例として,タイムズの記事に次のような記述があります。
The most senior British officer to hint at the differences between the US and Britain in Iraq was General Sir Mike Jackson, the head of the Army, who told MPs in 2004: "We must be able to fight with the Americans but we don't have to fight as the Americans." He said it was "a fact of life" that Britain's military doctrine was different from that of the US.
General Sir Mike Jacksonは,1972年1月30日のデリー(ロンドンデリー)での「ブラッディ・サンデー」事件のとき,現場にいた英軍部隊の高官でした。あのときいかに英軍兵士がracistな言辞を吐いていたかは証言録にも残っています。皮肉なことです。
米軍からは,英軍に対して「大して変わらない」という反論があるようです。(米TIMEなど)
http://www.uruknet.info/?p=m19604&l=i&size=1&hd=0
http://www.eveningecho.ie/news/bstory.asp?j=11003246&p=yyxx3z9z&n=11003334
※なお,このAli Fadhilさんは,以前ウェブログIraq the Modelに書いていた兄弟のひとりで,今はFree Iraqiで書いているAli Fadhilさんとは同名の別人です。名前ばかりか「バグダード在住の医師」というところまで同じなので,Iraq the ModelのAliさんも「珍しいこともあるもんだ」とか書いてたような気がします。
投稿者:いけだ
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