「宗派に基づいた暴力」とその影響について(20日、BBC)
シスタニ師、暴力の終結を呼びかけ
Sistani calls for end to violence
原文:http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/5199162.stm
イラクで最も有力なシーア派宗教指導者、アリ・アル=シスタニ師が、宗派に基づいた「憎悪と暴力」の終結を呼びかけた。
大アヤトラは、暴力はイラクにおける米軍の駐留を長引かせるだけであると述べた。
米軍は、暴力のレベルは先月バグダードで大規模な取り締まりが行われてからもほとんど変化していない、ということを認めている。そのような中、シスタニ師のこの呼びかけが出されたのである。
木曜日(20日)にも、バグダードをはじめとする各地で新たに暴力が発生し、多くの人々が殺されている(死亡している)。
記者たちによれば、シスタニ師の今回のコメントは、この数ヶ月で宗派に基づいた暴力の問題について出された公的な声明のうちで、最も強いものである。
シスタニ師は、「イラクのすべての息子たちへ……自身の国の将来を脅かす危険に気づくよう、そして憎悪と暴力を拒否することによってその危険にみな一致団結して立ち向かうことを、求める」と述べている。
シスタニ師は、2月のサマラにおけるシーア派の聖廟の爆破が、「分別を失った暴力」を引き起こした、と述べた。
また、この暴力は、停止されない限りは、「人々の団結を害し、解放と独立への人々の希望を、ながきにわたって、阻害する」であろうと述べた。
水曜日(19日)に米軍は、再び、スンニ派にもシーア派にも民兵や死の部隊を根絶するよう、強く求めている。
しかし米軍は木曜日(20日)、アルカーイダ・イン・イラクのリーダーであるアブ・ムサブ・アル=ザルカウィの殺害のあとで行われた大規模な取り締まりは、暴力については「ほんの少し減少」させただけであるということを認めている。
この治安計画には、最大で5万人の警官および兵士がバグダードの街路に立ち、検問所を増やし、暴力的なエリアでの強制捜査を行う、といったことが含まれている。
米軍のコールドウェル少将は、「完璧な世界で人が望むような暴力の減少は、今のところ、認められていない」と述べている。
米国の話では、攻撃の数は、6月14日から7月13日までの間は1日に平均して24であったが、この5日間では1日にほぼ34に増加している。
宗派に基づいた暴力の脅威により、国内避難民の問題が発生している。
イラクの移民省は、今月だけで3万人以上が、避難民(難民)として登録し、これでサマラ爆破以降の難民の総数は16万2千人となった、と述べている。
・・・以下省略
BBCはシスタニ師の呼びかけ(「ファトワ」だと思いますが)をメインにすえていますが、この記事で最も重要な部分は:
1)取り締まり(security clampdown)は、期待された効果が出ていない
2)国内避難民が激増している
の2点であろうと思います。
国内避難民の激増については、「イラク情勢ニュース URUK News」さんの7月19日記事で国連人権レポートの内容が紹介されています(NTY経由)。
「イラク情勢ニュース」さんから、2箇所を引用:
・「2006年5月と6月の2ヶ月に、合計で5818人が殺されたといわれ、5762人以上が負傷した」
・2003年以降、少なくとも5万人の市民が殺され、約15万人が暴力ゆえに自宅を離れたことをイラク保健省が明らかにした
取り締まりについては、上で「期待された効果が出ていない」と書きましたが、実は微妙な表現です。より正確に書くなら、「かくかくしかじかの目的であると米軍およびイラク当局が述べているが、その目的は達成できていない」となるでしょうか。そこでいよいよ「ツルの一声」を持つ宗教指導者の出番となった、というのが上記のBBC記事の報道内容だと思います。
なお、6月のはじめに「ザルカウィ死亡」(過去記事)の報道があり、それについてイラク政府も米軍も「大成功」と言っていたのですが、私が見た限り、それによって状況が改善されるとの見方を示していた記事(報道、ブログなど)はありませんでした。シンボルを破壊することで「ダメダメじゃん」と思われていたのを逆転し、「やるじゃん」と思わせたいのだ、ということが、「大成功」という当局の見解にはにじみ出ているように、私には感じられました。
ザルカウィ死亡に続き、米軍が「この人物がザルカウィの後継者だ」と名指しし顔写真を公開したエジプト人の男性は、この7年間、エジプトで投獄されているのだといいます。(リンク先はBBCですが、ほかのメディアでも記事は多くあります。Ayyub al-Masriで検索を。)
投稿者:いけだ
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