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2005/10/10

「イラク“命の水”支援プロジェクト緊急報告会」の内容

10月8日,都内で行なわれた「イラク“命の水”支援プロジェクト緊急報告会」に行ってきました。以下,その内容を手元のメモより。

その前にプロジェクトの概略。

イラク“命の水”支援プロジェクト(→ウェブサイト)は,「イラクホープネットワーク」さん,「リバーベンドプロジェクト」さん,NPOの「PEACE ON」さんや多数の個人の方が呼びかけて進められたプロジェクトで,7月終わりに発足,8月にバグダード市内に井戸を2つ作り,9月には大規模包囲攻撃が加えられたタルアファル(→当ウェブログ過去記事)住民の避難先(難民キャンプ)へミネラルウォーターを届けるという活動をなさいました。拠点は日本(東京)とヨルダン(アンマン)で,イラクには誰も入っていません。

同プロジェクトへの募金は9月末で締め切られ,合計で5,676,607円が寄せられたそうです。(→会計報告のページ

以下はメモを読める文章にしたものなので,細かい部分が不正確な場合もあると思います。

■10月8日,報告会の内容メモ:

【細井さん(リバーベンド・プロジェクト)のお話】
7月に浄水場が何者かに(by someone)破壊され,バグダードのチグリス川の西がほとんど断水状態になった。気温の高い夏のイラクで断水というのは大変な事態である。“命の水”支援プロジェクトは7月末に動き始め,8月6日に口座を開設した。最終的に560万円を超える募金が寄せられた。

プロジェクトではバグダード市内に2箇所の井戸を掘った。その費用はだいたい110万円。また,タルアファルへミネラルウォーター(1.5リットルのボトルを7000本)を送った。それらの実費,輸送費,銀行手数料を差し引いた残高が,3,940,831円である。

【相澤さん(PEACE ON)と高遠さん(イホネット)のお話】ホワイトボードに書いた図を示し,プロジェクターで写真を映しながら:
Al-Shuhada地区の井戸についての説明。今回の井戸は,普通の井戸(7メートルくらいの深さ)よりずっと深く,18メートルほど掘った。7メートルでは,生活用水にはなっても,飲料水としては不適合な場合もある。そのため深くした。

深い井戸を掘るため,特別に業者を手配した。10メートルまではドリルで一気に掘ることができるが,その先は一気には掘れない。

16メートルを掘ったところで水が出た。その後,プラスチックのパイプのようなものを入れた(井戸の中の壁になるもの)。井戸の底には砂利を敷き詰め,そこにパイプを下ろし,モーターをつけ,水を吸い上げる。パイプの先には蛇口。

このモーターが強力。燃料は電気ではなくガソリン。日本製のものを使っている。全体の中で最も高い($2000くらい)。だがあまりに強力。次回はもう少し小さなもので対応できるということがわかった。

バグダードは大変に治安が悪いので,井戸は民家の敷地内に掘った。写真の背景に壁が写っているのはそのため。その家の人が,地域の人々に敷地を開放して,水を提供している。

ランニング・コストはモーターのガソリン代だけ。

水質については,飲料水として適するよう深いところまで掘り,また水質検査をして飲めるものであることを確認。水質検査は,民間の検査と公の検査,2度受けている。

このような井戸は,サダム政権下には存在していた。そのためにイラクには井戸掘りの技術があり,今回もわりと楽に掘ることができた。

この井戸からは2分に20リットルくらい出る。1つの井戸で500世帯(4000人規模)の水をまかなうことができる。

現在のプロジェクトの口座の残高で,あと4つくらい井戸を掘ることができるだろう。

※井戸の写真は,水プロジェクトさんのウェブログ,8月21日9月1日にあります。

【井戸を掘った後の様子(動画)】
蛇口のところに人々。幼い女の子たち(4歳くらい?)が水を触っている光景も。

説明:
住民には,このプロジェクトのことは伏せていた。しかし今回,プロジェクトのメンバーがアンマンに行ったときに,現地スタッフから「この井戸は日本の支援」と告白したと聞いた。住民は「日本人は近隣諸国よりもよいムスリムだ」(笑)というほめ言葉を言っていた。

現地のスタッフに写真・映像の撮影を頼んだが,実際には撮影は非常に難しい(撮影機材を持っていると撃たれたりする)。そこを「できれば」ということでお願いした。写真や映像がなければ,現地の様子が確認できないためである。

実際に,カメラで撮影している間に射殺された友人(イラク人)がいる。他にも,撮影中に拘束されたり殺されたりといった事例がある。

【バグダードの町の映像】
これはバグダードの大通り。かつては車で渋滞していた。しかし今は車がスムーズに走っている。人も少ない。実際に人口が減っているのではないかと思われる。

【タルアファル支援についての説明】
タルアファル包囲攻撃は9月3~5日にかけて行なわれた。夏の暑さのなか,難民キャンプには水がないという。そこでプロジェクトから,予定外ではあったが,$5000を出してタルアファル支援を実施。ペットボトルを送った。

とはいえ,そんなに簡単に難民キャンプへ行けるわけではない。タルアファルはモスルに近いので,まずはモスル経由。

※タルアファルとモスルの位置関係(テキサス大サーバにある地図のクロップ)
map

それから厳重な検問が2つ(米軍と政府)。イラク保健省は,変な食べ物や汚水がキャンプに入ってくることを警戒していたようだ。

検問の先がキャンプ。ここでイラク政府にペットボトルを預けた。そこから水が,人々に配られた。

タルアファルは,今は住民の多くが帰還した。しかし町は破壊されている。そうそうすぐに生活に戻れるような状況ではない。

タルアファルからハディーサ,カーイムなど,アンバール州のあちこちで順繰りのように「掃討作戦」が行なわれている。状況は最悪であると言う。

が,バグダードで「今の最大の問題は」と問うと,「アンバール州の掃討作戦」というのとは違う答えである。今回アンマンに入ってイラク人から話を聞いて,イラク全体で地域ごとに「問題」は違うと感じているということがわかった。

【イラクの水について,など】
水全般の状況がよくない。いつ浄水場が破壊されるかわからないし,井戸を掘るにしても水質の確認が必要だ。劣化ウランは土壌への浸透が遅いので,現段階ではその直接的な影響を心配するよりも,水そのものを何とかする方がよいと判断したが,非常に多くの人が殺され,その死体が川に流されていて,水質が悪化している。最近は川の魚が太ってきたという話すら,イラク人から聞いたほどだ。

劣化ウランについて言うと,イラクの中高生にアンケートをしたら,9割が劣化ウランのことを知っていた。市場であっちのトマトはどうして安いんだと訊くと,「ウラニウム!ウラニウム!」という答えが返ってきたりもしていた。

ほとんどの人たちが知っている。だから余計にやりきれない思いである。

携帯電話で英語でしゃべっていると,外国人とつながりがあるということで狙われる。それでシリア人にさらわれたイラク人がいる。

〈前半終了:質疑応答を経て休憩〉
※質疑応答の時のメモは取っていませんでした。

【休憩終了,後半】
1)高遠さん(イホネット)
ファルージャの現状についての説明。出入りが厳しい,破壊された自宅の瓦礫の上でテント生活,といったお話。。。の前に(←というメモがある)

2)原文次郎さん(JVC)……ヨルダンから国際電話
タルアファルについて。シリアから入ってくる戦士を止めるためとして掃討作戦が行なわれた。避難した人々が戻っても,8割方破壊されているので,元の生活には戻れないというのが9月20日ごろまでの状況。

タルアファルの後,アンバール州のあちこちで大規模な作戦。現在は3つ。(カーイムのIron Fist作戦,10月1~6日/ハディーサ攻撃,10月4日~/ラマディ攻撃。)

今回のタルアファル攻撃でも,医療機関が標的とされた。病院が狙われるという事態は,ファルージャ以降,一般化している。

また憲法のレファレンダムについては,投票には名前の登録が必要だが,攻撃が行なわれた都市では,どこで登録すればいいんだという状態。

何が本当なのかがわからなくなる。

3)相澤さん(PEACE ON)と高遠さん
ヨルダンのホテルはイラク人でいっぱい。次々と,家財道具を積んだイラクからの車が到着している。

聞いた話。バグダードでバスラの医師がもうイラクには居られないと言った。警官が健康診断を受けに来て,「4~5日休養が必要だ」という診断書を書いてくれと頼む。医師がその理由を問うと,「家族を迎えに行くためだ。家族はイランにいる」と答える。

イラク南部にはペルシャ語しか話せない人(つまりイランの人)が増えている。街中でも商品ラベルなどでペルシャ文字が頻繁に見られるようになっている。

今のひどい状態について。政府が「私たちは一生懸命やっているのにスンニ派が」というネガティブ・キャンペーンをやっているのだ,という人々。

バドル旅団(もしくはバドル軍:シーア派SCIRIの民兵組織・軍)がスンニ派の宗教指導者をターゲットにしている。

【映像】
これはバグダードの人権団体から渡された映像である。米軍・イラク軍の強制捜査で家の中がめちゃくちゃになっている。夜の10時にやってきて,3時間。映像の中でぐちゃぐちゃになっている本は,実はクルアーン。捜査を行なった人々はクルアーンまで投げ捨てた。トイレに放り込みさえした。

家のお母さんが「イラクの兵士が私たちをスンニ派だと罵ったことが何より悲しい」と言っていた。この家の男たちは連行された。

スンニとシーアは分断は政府がやろうとしているのだ,と聖職者の葬儀で一斉に声があがった。「私たちは元々兄弟だ」という声。

9月に起きたバグダードの橋の事故(1000人が死亡)は,実は橋が老朽化していたことが原因。本来閉鎖されていたのに,あの日に限って開けられ,大惨事が発生した。

19歳のオスマン君という人が,川に落ちた人たちを助けるために川に飛び込み,6人を助け上げ,自分は力尽きて溺死した。彼は英雄視され,彼の名をつけた通りすらできた。

バグダードの電気は,以前は3時間通電し,3時間停電するという状況だった。しかし今はもっとひどい。人々の仕事といえば警官のみ。復興予算は石油と米軍のセキュリティにばかり行く。「サダムの方がましだった」どころか,「アラウィの方がましだった」という声も。

4)佐藤さん(JVC,JIM-NET)
ずっと白血病の子どもたちの支援を続けてきた。抵抗力が弱くなっているので,何でもないことでもおおごとになってしまう。目が腫れた子の写真。

白血病はますます増えている。一方で政府は権力争いで保健省が機能していないような状態。2005年の統計数値は今よりもっとひどくなるのではないかという心配。

支援活動では,病院に消毒用ジェル(アルコール)やうがい薬を届けた。それらが役立っている。

JIM-NETスタッフに,イブラヒムさんというバスラ出身者がいる。2003年,妊娠中の奥さんが白血病。2004年,ヨルダンで500グラムと700グラムという超未熟児を出産。その後いったんは回復するも,2005年1月に奥さんは亡くなった。イブラヒムさんは現在はヨルダンで子どもたちの先生として活動している。

5)高遠さん(イホネット)
バグダードのストリート・キッズが,自分たちの住みかを作る活動をしている様子の映像(動画カメラつき携帯で撮影。イラクでも動画カメラつき携帯は流行っている)。レンガがむき出しの建物を,自分たちが習った技術を使ってファーニッシュするボーイズの姿。

ファルージャとラマディでの学校再建プロジェクト。学校と医療機関の様子の写真。ラマディ近くの学校が混雑しているのは,ファルージャからの避難民の子どもたちも通学しているため。明るい色は,せめて学校では落ち着いて明るい環境が得られるようにと。

このほかに,ファルージャのインターネットセンターの写真。デスクトップ・パソコンが数台置かれ,インストラクターがいる。

「何かすべきこと,目標を与えてほしい。私が銃を手にしないように」と言ったファルージャの人。

6)相澤さん(PEACE ON)
盲学校のバスについてのお話。「日本の友人たちから」というステッカーが貼ってあったスクールバスは,現在はそのステッカーをはがしてある。スクールバスも撃たれた。

ハニ・アル・ダリさんはじめ,イラクの画家たちについてのお話。イラク人スタッフと「人間の盾」のフランス人女性とのロマンス&結婚のお話。および,「結婚するんだ♪」と嬉しそうだった人が破談になったお話。イラクというと怖いところというイメージがすっかり定着してしまったが,そこにある生活や「文化」を伝えていきたい。

ハニさんの個展が,11月に東京の銀座で行なわれる。詳細は近日発表(チラシが間に合わなかったので)。

……終了。8時半ごろ。

会場の物販ブースで,PEACE ONの出しているポストカードがあったので買ってきました。5枚セットで400円。いい紙を使ってて印刷も非常によく,また作品そのものの力強さももちろんあり,実にお買い得なポストカードです。

このセットのそれぞれのカードを,部分拡大して撮影したものを切り抜いて貼りあわせた画像が下記。11月に個展が開かれるハニさんの作品が2点,ハニさんのお師匠さんであらせられるモハマド・ムフラディンさんの作品が2点,ヌリ・アル・ラウィさんの水彩画が1点のセットです。(カードの全体像は,こちらのページで。)
artcard
※画像クリックでLan To Iraqのサイトに飛びます。

安易な比較をしたいわけではないんですが,ハニさんの作品の1点は,ルドンかと思った。。。

■リンク集:
イラク“命の水”支援プロジェクト
http://www.iraq-hope.net/water/

イラクホープネットワーク
http://www.iraq-hope.net/
 ウェブログはhttp://iraqhope.exblog.jp/(高遠さん)

リバーベンド・プロジェクト(Baghdad Burning)
http://www.geocities.jp/riverbendblog/
 『バグダード・バーニング』は2冊目が11月中旬に出版予定。
 ISBN 4-86193-022-7-C0031,予価1365円(税込)。
 版元は1冊目と同じくアートンさん。
 ウェブログはhttp://blogs.dion.ne.jp/hope/(細井さん)

JVC(日本国際ボランティアセンター)
http://www.ngo-jvc.net/
 ウェブログはhttp://rep-eye.cocolog-nifty.com/(原さん)

JIM-NET(Japan Iraq Medical Network,日本イラク医療支援ネットワーク)
http://www.jim-net.net/
 ウェブログはhttp://www.doblog.com/weblog/myblog/18736/(佐藤さん),http://www.doblog.com/weblog/myblog/18838

PEACE ON
http://npopeaceon.org/
 ウェブログはhttp://peaceonyatch.way-nifty.com/peace_on_iraq/(相澤さん)
 イラク現代アート紹介のLAN TO IRAQはhttp://npopeaceon.org/lantoiraq/index.html

■「何かできることはないか」という方へ:
“命の水”支援プロジェクトの募金受付は終了していますが,JVCさんで下記のような医療支援が行なわれています。

……私たちは昨年の10月以降のファルージャ一斉攻撃の際に、ファルージャ総合病院や市内の診療所がいち早く攻撃の対象とされたことに衝撃を受けましたが、その後、Premiere UrgenceなどのNGOによる現地調査の結果、これらユーフラテス河沿いの都市でも戦闘が起きるたびに、抵抗勢力と治安当局の双方の攻撃により医療機関が被害を受けていると報告されています。

地元のNGO関係者を通じて伝えられたアンバール州の行政当局(アンバール再建室Anbar Reconstruction Room)からの支援要請によると、現地は砂漠地帯で気候の変動が激しい地域ということもあり、各年齢層に共通して抗生剤などの薬品の需要が最も高いとのことで、以下の要請を受けています。
(総額1万2千ドル相当、9月11日時点)

 クラフォラン (アンプル)   3,000本
 アンピクロックス (アンプル) 3,000本
 ボルタリン (アンプル)    2,000本
 アモキシリン(シロップ)    1,500本
 ケフレックス(カプセル)    2,000個
 ケフリックス(サスペンション、小児用)1000個
 包帯       患者400名分に足りる数

JVCでは、この支援要請に応えて緊急支援を9月19日より開始しました。当面支援要請の3分の1に当たる4千ドル分の支援を計画していますので、皆様からのご支援の募金をどうぞお願いいたします。

郵便振替: 00190-9-27495
加入者名: JVC東京事務所
通信欄: 『イラク緊急』とお書きください

これらの医薬品はバグダッド市内の保健省認定の薬局から正規に購入が可能なので、地元のイラク人協力者の助けを得てバグダッドで購入の上、アンバール州西部、シリア国境の都市カイム近郊の村落の診療所に配布します。

……
※全文はJVCさんのサイト内,「イラク西部地域での緊急支援を開始(2005年9月28日 更新)」にて。


投稿者:いけだ