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2006/04/19

イラクの同性愛者たちは今。

このことが大メディアの記事で取り上げられたのは初めてかもしれません。(個人のブログでは関連する記述があったかもしれないけれども。)BBC、4月17日付け。

Gays in Iraq fear for their lives
By Michael McDonough
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4915172.stm

*要旨

「もうゲイであることがいやになりました。パンを買いに出ると怖いと思うし、ドアベルが鳴れば僕をやりにきたのだと思うのです」と語るフセインさんの抱く恐怖は、イラクの男性同性愛者たちに共通したものである。

米国主導の侵略以降、男性同性愛者たちはその性的指向ゆえに殺されている、と彼らは言う。サダム・フセインが政権を追われて以降、暴力が増大し、宗教指導者や民兵組織が影響力を増しているためだと。

イスラームでは同性愛を罪(sinful)と考える。シーア派のアヤトラ、シスタニ師の名前で運営されているウェブサイトには、同性愛者は死刑にすべきとある。モラルの問題を扱ったコーナーに「ソドミーを行なうものは、最も苛烈なる方法で殺されるべきである」と書かれているのだ。サイトの英語版にはこの記述はない。イランのクオム(Qom)で制作されているアラビア語版に書かれているのだ。

BBCではシスタニ師の代理人のセイエド・カシュミリ(Seyed Kashmiri)に説明を求めた。メールでの回答には「男性同性愛者も女性同性愛者も、行為1度だけで殺されるというわけではない。この刑罰が行なわれる際には法学者が判断する。おそらくほかの宗教(heavenly religions)でも同様であろうが、法学者の判断は神学に基づいてなされる」とあった。

イラクでは殺害や誘拐が広がっていて、流血の多くが宗派間の緊張や反米反乱と関係している。しかしBBCの取材に応じたイラクの同性愛者たちは、性的指向のために標的にされているのだ、と語る。

フセインさんは32歳で、兄と兄嫁と姪たちと一緒にバグダードに暮らしている。女性っぽい外見と立ち居振る舞いは人目を引き、敵意を呼ぶのだと彼は言う。本名を使わないことを条件にBBCの取材に応じたフセインさんは、「兄の友人たちが『今の混乱した状況なら弟を殺しても報復されることはない。そうすれば恥をさらさなくてもよくなる』と兄に言ったそうです」と語る。フセインさんの友人でトランスセクシャルのディナさん(元の名前はハイダーさん)は、6ヶ月ほど前にバグダードでパーティへ向かう途中で殺されたそうだ。

アハメドさんは31歳で内装工。以前はバグダード市内でボーイフレンドのマージンさんと暮らしていた。そのマージンさんがジムの建物の外で射殺され、アハメドさんはヨルダンに逃げた。9ヶ月前のことだ。

ふたりがカップルであることはよく知られていた。マージンさんはセクシャリティのために標的にされたのだ、とアハメドさんは言う。「私はゲイで、そのために生命に危険がある。だからイラクから逃げてきたのです」と彼はBBCに語った。

アハメドさんは、ジムでマージンさんが射殺される前にも、ゲイの友人と一緒にいたところを手榴弾で攻撃されたことがある。彼の顔にはまだその破片が残っている。その友人は手榴弾攻撃の1週間後、家を急襲したガンマンたちに殺されたという。

イラクの内務副大臣のフセイン・カメル少将は、BBCに、特定のマイノリティ集団が誘拐や殺害の標的になっているとの認識はないと語った。また、ゲイは殺されるべきであるとの記述がシスタニ師のサイトにあることについても知らないと述べた。

副大臣は「攻撃を受けているという場合には当局に連絡していただきたい」と言うが、フセインさんは、ゲイの人々は警察を恐れているのだと言う。

(警察を管轄する)内務省は、イラク最大のシーア派政党のひとつであるSCIRIのメンバーによって運営されている。SCIRIにはバドル旅団という自前の民兵組織がある。イラクの警察の多くの部分が、そのような集団の支配下にあるという懸念が広くあるのだ。

ゲイに対する攻撃の多くはバドル旅団やシーア派民兵組織によるものだとフセインさんは考えている。

アムネスティ・インターナショナルは、反乱に関連する暴力についての作業に注力しており、イラクでの反同性愛的な動きについては情報を把握していないという。AIのロンドン本部のスポークスマンは「私たちが積極的に見ている分野ではないので。かといって今後も注目しないということではありませんが」と述べている。

しかしフセインさんやアハメドさん、またイラク国外のゲイのアクティヴィストたちは、イラクの同性愛者たちにとって状況が劇的に悪くなっているというはっきりした証拠があると言う。

「サダムは暴君でした。しかし少なくともサダム政権下では私たちにはもっと自由があった」とフセインさんは言う。「今では、ゲイの男たちは何の理由もなく殺されているのです。」

※アラビア語のインタビューは Muhayman Jamilによる。


この記事に言及しているウェブログを検索:
http://blogsearch.google.com/blogsearch?hl=en&q=
http%3A%2F%2Fnews.bbc.co.uk%2F2%2Fhi%2Fmiddle_east%2F
4915172.stm&btnG=Search+Blogs


「イスラム法に基づき、シーア派によって切り盛りされている国家」であるイランでは、昨年、「同性愛者の公開処刑」が、私が聞いただけでも3度行なわれています(今閲覧できるソースはgayjapannews.comさんとか、Human Rights Watchとか)。この処刑については、私は偶然、映像をコマ送りにしたような写真を数点見た(というか「見てしまった」)のですが、死刑についてどう考えるかとか人道的な殺人などというものがあるのかということは別にして、いくらなんでもその高さはないだろう、という絞首刑の方法でした。

イラク人の同性愛者に取材した上記の記事を読んだとき――正確には、シスタニ師のアラビア語版のサイトに「ソドミーを行なう者は殺されるべきである」と書かれていると読んだときに、イランで行なわれたその「処刑」の映像が頭に浮かびました。

安易に「イスラム教では」とくくることは常にあぶなっかしいことだけれども(その国家に「死刑」という制度があるかないかの話と、「宗教」の話を混同しすぎてはいけない。英国は死刑が廃止されているので英メディアはここでちょっと暴走するきらいがなくはないのだけど、このBBC記事はそうでもない)、イランでの「同性愛者の処刑(理由は同性愛行為を行なったから)」は、宗教と国家の名での殺人(killing in the name of the religion and the state)であると私は考えています。そしてイランでそれがあるのならば、とつい考えてしまう。

宗教指導者たちが大きな発言力と政治的指導力と社会的な圧力を有するようになったイラクで、「ソドミーを行なう者」と呼ばれる(それを「ソドミー」と呼ぶことは、空を「空」と呼ぶこととは違うのですが)人たちが、日々何を感じているか。

情報量が少ない記事ではあるけれども、このBBC記事がなければ、それを考えてみることすらしなかったかもしれません。

「殺されるべき」というのが、シスタニ師のアラビア語版のサイトには書かれているが英語版のサイトにはないということは、「アメリカやイギリスに見えないところで何をしているか」、「英語で書かれないものは“国際社会”には存在しないも同然という残念なデフォルトの事実を前提に、彼らは何をしているのか」(ファトワを出したわけではないにしても、権力者が「ゲイは処刑」と書くことは、少なくともintimidationにはなるだろう・・・どんなに少なく見積もっても)を示す事例のひとつかもしれません。英語の情報に頼るしかない自分としては、こういうことはしっかり覚えておかなければ。

それから、アムネスティ・インターナショナルも「ゲイへの迫害」どころではないということ。「バグダードはQOLが世界最低」という調査結果があり、またそれ以前に、日々のニュースや、バグダードやモスルなどから英語で伝えられるブログの記事を読んでいれば、多くの人が「朝出かけて夕方帰宅する」「帰宅したら扇風機のスイッチを入れる」「銃声に邪魔されずに熟睡する」といったことだけでいっぱいいっぱいになっている様子はわかるのだけれども、それにしても、AIでさえこの問題にほとんど目を向けることができないとは。。。

昨年10月、「憲法国民投票」の前に、Riverbendがこう書いています。(翻訳は池田真里さん。)

 女性の権利はもはや誰にとっても主要な関心事ではない。女性の権利について話し始める人がいると、人は笑いさえするのだ。私がイラン型シャリアの可能性について意見を述べると、たいてい「ともかくイラクを分裂させないことだ・・・」という返事が返ってくる。

 内戦の可能性や民族の強制退去や浄化という現実、日常化した流血や死に比べたら、権利や自由はたいしたことではなくなってしまった。

-- http://www.geocities.jp/riverbendblog/0510.html


単純に考えて「人口の半分」の女性の権利についてすらこの状況。(もっとも、「女性の権利」については、誰も注目していないというわけではないのだけれども。)

同性愛者は、数として女性より少ないし、女性よりももっと・・・・・・何というか、「自分がそうであること」で「人権」を、というか「普通に生きていくこと」を訴えることがしづらい。それはその社会の多くの人の信じる宗教が何であるかとは本来あまり関係のないことだと思うけれども、イラクの場合、シスタニ師のサイトが「殺されるべき」とまで書いている。

そして、実際に襲撃され、殺されている人がいる。そしてそれはおそらく、彼らを標的とする襲撃である。「無差別」とか「巻き添え」とか「コラテラル・ダメージ」ではないもの。

なお、「民主化された」イラクでは「死刑」は廃止されるはずでしたが、結局廃止されませんでした。「イラクでの死刑」についてニュースになるのはサダム・フセイン特別法廷の被告たちばかりですが(彼らは死刑になるのかどうか、など)、昨年9月には3人の「犯罪者」が絞首刑になっていますし、この3月には13人が処刑されています。(この人たちの処刑には、行為から政治的動機・意図をはぎとる「犯罪化(criminarisation)」の意図もあるかもしれません。つまり、思想・信条ゆえにその行為を行なった「テロリスト」ですらない、「犯罪者」としての処刑。)

曲がりなりにも法的手続きを経た「処刑」以外に、いわゆる「死の部隊」による「法的手続きを経ない処刑」もあります。

※なお、パキスタンの難民キャンプから陸路ロンドンを目指すアフガニスタン人2人の旅を描いた映画、『イン・ディス・ワールド (In This World)』で、2人がイランのテヘランに着くなり、たくましい男性の写真をあしらった「テレクラのピンクチラシ」が壁に貼られた部屋(白タクの事務所だったかなあ、あれは)が映像に出てきた、ということも書き添えておきます。(この映画は手持ちのデジカムでゲリラ的に撮影されているのでその場面もセットではないはずです。)

投稿者:いけだ

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追記:
■ BBC報道までの経緯&事態の全体像
英語で最初にこのこと(バドル旅団による組織的な同性愛者への襲撃・殺害)を取り上げたのは、Doug Irelandのようです。
http://direland.typepad.com/

2月17日にはフランスのル・モンドが記事にしているそうです。(私は読んでいません。)
http://www.lemonde.fr/cgi-bin/ACHATS/937676.html...

NYCのGay City NewsのMarch 23 - 29, 2006号:
http://www.gaycitynews.com/gcn_511/iraq.html

この、3月23~29日号のGCNの写真には、Courtesy OutRage! Londonというクレジットがついているので、OutRage!で何か記事が出ていたのかもしれません。(確認している余裕がないのではしょります。)

direlandの4月13日(NYCのGay City Newsに書いた記事だそうです):
http://direland.typepad.com/direland/2006/04/un_agency_confi.html

国連のOffice for the Coordination of Humanitarian Affairs (UNOCHA)が4月10日に出したレポートに
- 大学の教授や講師に対する誘拐が多発していること。身代金を取った上で人質を殺してしまうというもの(この5ヶ月だけで350件)
- 内務省の役人が「1日にざっと50件の誘拐が発生している」と認めていること
- 同じ役人が、「1月以降、誘拐の件数はますます増加し、ある特定のコミュニティに対する襲撃や脅迫も同様である」と認めていること
- そういった「コミュニティ」のひとつが同性愛者であり、その場合の目的は「身代金以外のもの」であるということ
……が書かれている、という記事です。

同Direland、4月17日(BBC報道があったことを受けての記事):
http://direland.typepad.com/direland/2006/04/at_last_bbc_fir.html

この17日の記事にはBBC記事には書かれていないとても重要なことが書かれていますので、その部分だけ引用します(改行を加えました。読みづらいので):

The BBC failed to note the relationshihp between the killings of Iraqi gays and the lethal anti-gay pogrom in Iran -- it does not mention that Ayatollah al-Sistani is himself an Iranian, that SCIRI (Supreme Council for the Islamic Revolution in Iraq) is backed by Iran -- its headquarters were in Tehran for more than 20 years during the Saddam Hussein dictatorship -- and that the Badr Corps is financed by Iran.

This is common knowlege in Iraq -- indeed, in an important February 17 interview with Le Monde that was ignored by the English-language press, the fact that the salaries of the soldiers of the Badr Corps -- whose death squads are carrying out the "sexual cleansing" campaign of murder of gay Iraqis -- are paid by Iran, was confirmed by Ali Debbagh, a counselor to Grand Ayatollah Ali al-Sistani, a member of the Iraqi parliament's Foreign Affairs Committee, and a university professor specializing in religious political parties.

And while the BBC report did mention that "there are widespread concerns that large parts of Iraq's police force are under the control of such groups," it omitted the fact that Badr Corps members in Baghdad and elsewhere wear the uniforms of the official police under the control of the Interior Ministry.

つまり、バドル旅団(Badr Corpsなのでほんとは「旅団」ではありませんが)は警察の制服を着ていて、給与はイランから支払われている。給与については、シスタニ派というか SCIRIの責任ある立場の人物が認めている。そして、これは書くまでもないことですが、SCIRIはサダム政権下でイランに亡命していたシーア派の人たちの組織である――これを、BBCは書いていない。

なお、Advocateも記事を出しています。日付は03/25/06-03/27/06。
http://www.advocate.com/news_detail_ektid28282.asp