「これほど状況がひどいことはかつてなかった」
植民地主義と人種差別主義は手を携えてきました。しばしばあからさまな「人種差別」ではなく差別者たちの自己欺瞞に満ちた耳には心地よく聞こえるような「宣伝」を伴って。
米国占領下のイラク
「これほど状況がひどいことはかつてなかった」
アンソニー・アルノーヴ
2005年11月16日
ZNet原文
米軍と連合軍が2003年3月、イラクを侵略したとき、多くのイラク人は、少なくとも生活状態は改善されるのではないかと期待した。15年に及ぶ史上最も過酷な経済制裁のもとで暮らしてきた後だったから。けれども、今や人々は、事実が期待と異なっていたことを知っている。「奴らが、私たちを助けにくると言ったとき、私はそれを信じました」。ホセイン・イブラヒムはクリスチャン・サイエンス・モニター誌のインタビューでこう語った。「でも今は、奴らが憎い。サダムよりもひどいのです」。
アンソニー・アルノーブはサウスエンド・プレスから出版された「Iraq Under Siege」の編者で、「Voices of a People's History of the United States」をハワード・ジンとの共著で執筆している。新刊「Iraq: The Logic of Withdrawal」がニュープレスから来春出版される予定。アンソニーが、米国のイラク占領における人種差別主義の論理を検討する。
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占領下イラクの生活はあまりにひどいので、イラク人の多くが、サダム・フセイン独裁時代の国連経済制裁下における惨憺たる時代のほうがまだ現在よりはよかったと述べるほどである。国の大部分で、現在、2003年3月の米国侵略以前よりも、電力供給は少ない。ここから予測できる帰結がもたらされる。その一つは、ニューヨーク・タイムズ紙が報ずるように、「医療機器が止まって、緊急医療室で死んでいく患者」などである。
何十億ドルもが「再建資金」としてジョージ・W・ブッシュの友人であるベクテル社やハリタートン社に手渡されたにもかかわらず、「イラク人家庭の半分近くが今も安全な水へアクセスできず、首都を除けば下水施設につながっている家庭はたった8%である」とUSAトゥデイ紙は報じている。
イラクの病院も崩壊寸前である。「バグダードの中央教育小児病院では、汚水がそのまま何ガロンも床を流れている」とジェフリー・ジェトルマンはニューヨーク・タイムズ紙で報じている。「飲み水が汚染されている。医者たちによると、患者の80%が、入院時には感染していなかった病気を抱えて退院する」。
185の公立病院を管轄するエマン・アシムは「戦争前より現在のほうが確実にひどい」とタイムズ紙に語った。「経済制裁が最も厳しかったときでも、状態は悲惨だったが、これほど悪くはなかった」。
失業も急増した。主な原因は、占領当局の政策決定にある。
侵略後、連合国暫定統治当局の代表L・ポール・ブレマー三世は、35万人からなるイラク軍を解散し、バース党員だった公務員を----イラクではほとんどの仕事に就くために党員であることが要求されていたという事実があった----数千人解雇した。イラク人労働者の半数以上が失業しているにもかかわらず、イブラヒム・ジャファリ首相は、米国のエコノミストたちが執筆した私有化計画をイラク政府が実行するために、さらに公共部門の仕事を減らすと発表した。
「解放された」イラクについては、米国占領当局と契約者たちが入札なしのコストプラス式契約のもとで濡れ手に粟の儲けをあげ、イラク人たちを信用しないで、その年収の何倍もの金を稼ぐ輸入外国人労働者に何百万ドルもを支払っている。「この血塗られたサーカスの全史が書かれるときに、人々は占領者たちの汚職と腐敗と無能の恐るべき規模と厚顔さに開いた口がふさがらないことだろう」。ジャーナリストのクリスチャン・パレンティは、「The Freedom: Shadows and Hallucinations in Occupied Iraq」でこう書いている。
イラク「再建」に米国議会が割り当てた184億ドルのうち、これまでに使われたのは半分以下であり、約1億ドルが何の記録もなく消え失せたとロサンゼルス・タイムズ紙は報じている。
イラクを再建するかわりに、こうした金は、ブッシュ政権の企業友軍たちに流れ込んでいるのである。「米国企業150社以上が契約を受注し、その総額は500億ドルを超える。イラクのGDPの二倍以上である」と研究者のアントニア・ジュハスは語る。「ハリバートンが最大の受益者で、110億ドル以上、ほかに13社がそれぞれ15億ドルを稼いでいる。こうした契約企業はイラクの人々にではなく米国政府に向けて話をする」。
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米国政府にだけ説明するという原則は、イラク占領のあらゆる側面に行き渡っている。実際の権限はイラクの人々にではなく、占領軍にある。パキスタン人著述家タリク・アリが『Bush in Babylon』の中で指摘するように、イラクで我々が目にしているのは「新自由主義経済時代の帝国主義」のあからさまな事例なのである。
連合国暫定統治当局は、フセイン政権時代の反労働組合法を更新し、一方で、これまでは米国企業が夢見るばかりだったレベルにまでイラクでのビジネスに関する課税を引き下げた。
「ブッシュ政権はイラク経済を米国のお望み通り作り変える包括的計画を立案した」と、侵略開始後まもなくウォールストリート・ジャーナル紙は報じている。ニューヨーク・タイムズ紙の経済コラムニストであるジェフ・マドリックが指摘するように、このイラク向け経済プランは「広汎にわたる残虐な事態」を引き起こす可能性が高い。
経済的不安だけでなく、普通の人々にとって物理的な危険も増大している。教師や医師として働いていた女性たちは、今や外出をおそれて家に閉じこめられていると語る。苦労して勝ち取ってきた女性の社会的・政治的権利が崩壊していると彼女たちは考えている。これまで学校に通っていた子供たちは、両親が外に出すことをおそれて家に止め置かれている。
そして、イラクの人々は、米軍や英軍の兵士たちがいつ何時、家のドアを突き破って入って来て、家族が侮辱され、拘束されて連れ去られ、拘留されて拷問を受けたり殺されたりするかも知れないことを知っている。
ニューヨーク・タイムズ紙のデクスター・フィルキンスは、2005年10月、ナータン・ササマン中佐を扱った記事の中で、占領の事実を少し明らかにした。ササマンは第四歩兵師団の1−8大隊司令官で、攻撃的な人物である。自軍部隊の兵士が一人死んだあと、ササマンは、自分の部隊は「ゲリラを殺し、ゲリラを支持する者全員に懲罰を加え、ゲリラを支持していない人々にも懲罰を加えることをモットーとする」と宣言した。
フィルキンスは次のように報じている。「2004年1月の作戦で、ササマン配下の兵士の一団が、トラック略奪の容疑をかけられているイラク人男性の家にやってきた。その男性はいなかったが、彼の妻とほかに二人の女性が対応した。『15分で家具を運び出せ』とガレブ・ミケル軍曹は命じた。女性は嘆願し叫んだが、結局従い、ベッドとカウチ、テレビを玄関から外に運び出した。ミケルの部下たちは家の中に対戦車ミサイルを4発打ち込み、家を粉々に破壊してから、火を放った」。ミケルは「これは『避難所撲滅』政策と呼ばれている」と語った。
米軍兵士たちは、イラク人の家や学校を、兵士たちの宿営のために没収する。「イラクでは、基地から遠く離れたところで作戦を遂行する際に米軍兵士たちが滞在するために、しばしば数日から数週間、住宅をはじめとするさまざまな建物を奪い取ることがしょっちゅうある」とAP通信は報じている。
「ラマダンの直前に、奴らは私の家に押し入り、今も居座っています」とディヤ・ハミッド・アル・カルブリは記者に対して語った。「奴らが私たちの目の前で家に損害を与えるのを見るのは我慢できません。・・・・・・奴らに出て行ってくれというのは恐ろしい」。「海兵隊は奪い取った家でキャンプしている」とニューヨーク・タイムズ紙はフサイヤから報じた。フサイヤは2005年11月に大規模な攻撃が行われたところで、その攻撃では「ジェット戦闘機が上空を飛び」、町に「500ポンド爆弾を何個も投下した」。
AP通信もタイムズ紙も、米国植民者がジョージ王と英国に対して持った大きな不満の一つが兵士の宿営にあったことを覚えていないようである。このことは、米国独立宣言に「彼は、軍隊をして、文官の権力より独立し、かつ優位にたたしめるようにした。彼は、本国議会の越権の立法行為に裁可を与え、その結果、本国議会と結んで、わが憲法の認めていない、またさが諸法律の承認していない権限に、われわれを服従せしめた:我々の間に多数の軍隊を宿営せしめた。その軍隊が諸邦の住民に対して殺人を犯すことがあっても、偽りの裁判によって処罰を免れしめた」と記されているにもかかわらず。
けれども、イラクの人々の気持ちなど、米国の計算ではものの数に入らない。フサイバ攻撃を司令した海兵隊第二大隊のステファン・デーヴィス大佐が言うように「我々はここで奴らの心をつかもうなどとはしていない。そんなことはどうでもいい」のである。
***第二部に続く***
文中「私有化」としているところは「privetization」です。日本では「民営化」などと言われていますが、政府・国はその国に暮らす市民(民)の委託を受けてものごとを行っているのだから、本来「国営・公営」=「民営」であり、「国営・公営」が非効率なのは民への責任を果たすことで改善されるべきところです。
ところで、小泉政権はそうした「民主化」のかわりに「民営化」と偽って公共部門の「私有化」を進めています。
「私有化」で効率が上がるとよく言われますが、カリフォルニア州の電力、英国ヨークシャーの水道(あの雨ばかりの英国で1990年代半ばに干ばつの危機が訪れたのは私有化された水道局が利益を追求して設備投資を行わず、地下のパイプから膨大な水が漏れたため)、エンロン、雪印、山一証券、長銀などの例を見てわかるように、それは神話にすぎません。
また、「効率」が「改善」された例では、職員の首切り、低賃金化、長時間労働化などによる「経費削減」で、「私有」者たちの儲け効率が改善されたにすぎません。
投稿者:益岡
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