CPTメンバー拉致の件
1)CPTについて:
CPT (Chiristian Peacemaker Teams;クリスチャン平和構築チーム) は、シカゴ(USA)とトロント(カナダ)に本部を置くエキュメニカルな非暴力運動で、メノナイト、ブレズレン、クェーカー(フレンド会)をはじめとする宗派が中心となり(バプティスト、プレスビテリアンなど、ほかのプロテスタントの宗派も参加しています)、1984年にスタートして以来、米国内のいくつかの地域や、ハイチ、コロンビア、ヨルダン川西岸地区、ガザ、ボスニア、チェチェンといった世界各地の紛争地で、平和構築の活動を続けてきました。
http://www.cpt.org/
現在のイラクでの活動は、2002年10月(2003年3月の「開戦」の前)にスタートし、拠点はバグダードに置かれています。
http://www.cpt.org/iraq/iraq.php
また、2005年1月からは、イラク国内でMuslim Peacemaker Teamsをスタートするための実践的トレーニングなど、「クリスチャン」という枠を超えた「平和構築」の活動もなされてきました。
http://groups.yahoo.com/group/cpt_iraq/message/855
チームの活動に参加している人々が撮影した写真が、オンライン・アルバムで公開されています。
http://www.cpt.org/gallery/view_album.php?set_albumName=iraq
彼らが書いたレポートや日記は、CPTのサイトや、「エレクトロニック・イラク」のサイトに掲載され、その一部は当ウェブログでも日本語化してきました。
これらの写真やレポートは、サドルシティやアミリヤ(いずれもバグダード市内)、タルアファル、バスラ、ファルージャ、ファルージャからの避難民のキャンプ、ナジャフ、ケルバラ、ラマディなど、イラク各地から伝えられてきました。CPTの人たちが、その土地を実際に訪問し、現地の人々の話を聞くなどして作成・配信された丁寧なレポートは、特に「虐待」や「民間人への被害」(“軍事作戦”によるものと“テロ”によるものの双方)といった点を中心としており、新聞などの「メディア」がバグダードのグリーンゾーンから事実上出られないという状況下、少なくとも当ウェブログにとっては非常に貴重な情報源のひとつであったことは間違いありません。私はキリスト教を信仰していませんので、彼らの理念についての理解がどのくらいできているのかは覚束ない。けれども、実際に彼らが動き、書き、撮影し、伝えてきた情報は、彼らの理念を理解していてもいなくても、見たり読んだりすることができ、そこにあるメッセージは読み取ることができると思います。
2)拉致事件の経緯
11月26日、「西洋人4人」がバグダードで消息を絶ちました(ガーディアン記事によると、バグダード西部のモスクから拉致されたとのこと)。4人のうち1人は米国籍、1人は英国籍、2人はカナダ国籍です。
11月30日、その4人が撮影されたビデオ映像が、アルジャジーラで放映されました。そのことを報じるBBC記事(下記)からの情報(ストリーム映像含む)を短くまとめると、拉致を行なった武装グループは、the Swords of Truth Brigade(「真実の剣旅団」:ストリーム映像ではthe Swords of Righteousness Brigadeという英訳がされていますが)を名乗っていますが、このグループ名はこれまで出てきたことのない名称(ビデオ画面の右肩には2本の剣が交差した紋章が入っている)。また、ビデオには犯行をおこなったグループのメンバーの姿は一切写されておらず、人質もただ白い壁の前に座っているだけで、目隠しをされていたり、武器を頭につきつけられていたりといった、過去の「人質映像」(ケン・ビグリーさん、マーガレット・ハッサンさんなど)とは異なっている。ビデオでは「クリスチャン平和活動者のふりをしたスパイだから拘束した」と武装グループ側が主張しており、「人質」のパスポートも写されている、とのこと。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/middle_east/4483760.stm
※上の記事から見ることができるストリーム映像の最後の方にあるのは、数日前に車両が銃撃にあって死亡した英国人ムスリム3人(巡礼のためにイラクを訪れていた:BBC記事)についての話で、CPTメンバー拉致とは直接の関係はありません。
※上記BBC記事には、CPTメンバーとは別に拉致されているドイツ人支援活動家のSusanne Osthoffさんの「人質映像」の写真と説明も含まれています。こちらのビデオは、人質を座らせた両脇に、覆面をつけ武装した男たちが立ち、その1人が何か文書を読み上げているといった光景です。
3)CPTのプレスリリース
11月26日に消息を絶ち、30日にビデオが放映された4人のCPTメンバーについてのCPTのプレスリリースを以下に粗く直訳します(結果物は、特に宗教的な言辞についてはかなり不正確な表現になっている可能性もあります)。
同じ文書(<だと思うのですが、アラビア語は読めないので表題から判断)は、アラビア語でもアップロードされています(PDFファイル)。
URGENT: Update on Four Missing CPT Members in Iraq
Press Release, Christian Peacemaker Teams, 29 November 2005
CPTNet Nov 30, 2005, 1 am (Baghdad)
"Update on Missing Persons in Iraq"
原文:http://electroniciraq.net/news/2206.shtml
または
http://www.cpt.org/index.html
バグダード発――アルジャジーラ・テレビで大切な友人たちの姿を見ることになり、非常に悲しく感じています。ビデオを見て当惑しており、また、何度もあの映像が放映されることは友人たちの生命を危険にさらすことになるであろうと確信しています。彼らが誘拐されたことについて、私たちは深く傷ついています。友人たちを捕らえている人々に慈悲の心あらんことを、友人たちが近く解放されることを祈ります。友人たちの顔を私たちの家で見ることを私たちは深く望みます。また、私たちがどれほど彼らを大切に思っているか、彼らがいなくなって心配しているか、何が彼らの身に怒りつつあるのかについて不安と懸念を覚えているか、友人たちに知ってもらいたいと思っています。
当チームの一員に起きたことは、イラクに対する不法な攻撃とそれに続いた占領、およびイラクの人々に対する抑圧に起因する米英政府の行動の結果であり、私たちはそれを理由として怒りを感じています。クリスチャン平和構築チーム(CPT)は米国政府によって不法に拘束され虐待されてきたイラク人囚人の権利のために活動してきました。米軍の手でイラクの人々が拷問されていることを最初に――西側のメディアがアブ・グレイブで起きていることを認めたのよりもずっと前に――公に非難したのは、私たちです。今もイラクに残り、イラクの人々に何が起きているのかについて真実を語り続けている数少ない外国人に含まれているのが私たちです。私たちはこの活動を続けたいと思い、また、私たちの大切なチームメイトが迅速に解放されることを祈っています。
拘束されている人々について、詳細は以下の通りです。
トム・フォックス (Tom Fox)、54歳 米ヴァージニア州クリアブルック出身
2人の子のよき父親であり、この2年間、CPTに参加して、イラクの人権団体とともに平和を促進する活動を行なってきました。フォックス氏は22年間にわたってクエーカーのおしえを忠実に守り、イラクにおいては、イスラムの文化の豊かさをより完全に理解しようと努めてきました。彼はまた、戦争の恐ろしさと、米国の政策と行動の結果として普通のイラクの民間人にもたらされる影響について、米国の市民に伝えることに真剣に取り組んできました。
音楽家としても有能なフォックス氏はバス・クラリネットやリコーダーの奏者で、料理好きで、食料品店の経営者でもあります。多くの時間を子どもたちとの活動に当ててきた人物で、クエーカーのユース・プログラムを指導し、若者たちのキャンプで働いてきた人であり、若い人々に戦争と暴力に反対するよう働きかけてきた人です。
フォックス氏は物静かで穏やかな人柄で、誰のことをも尊重し、「すべての人の中に神はおられる」と信じ、それゆえに平和のための活動を大切なものとしてきた人です。
ノーマン・ケンバー (Norman Kember)、74歳 英ロンドン出身
ケンバー氏とその夫人は結婚して45年になり、2人の娘も既に結婚しています。ケンバー氏は3歳になる孫を持つおじいちゃんでもあります。生涯を通じて平和主義者であり、18歳のとき、軍務につく代わりに病院に勤務することを選びました。
定年退職を迎える前、ケンバー氏はロンドンの聖バーソロミュー病院の教授を務めており、医学生たちを教えていました。広く知られた平和活動家であり、いくつかの平和団体に関わってきました。この10年間はホームレスの人々に無料で食事を提供する地元のプログラムにボランティアとして参加してきました。
ケンバー氏は散策やバードウォッチングを好み、ユーモラスな歌や寸劇を書くことを趣味としてきました。若いころは登山を楽しんでいました。
ジェイムズ・ローニー (James Loney)、41歳 カナダ、トロント出身
トロントで地域奉仕活動を行なってきたローニー氏は、2000年8月にCPTに加わり、現在、CPTカナダのプログラム・コーディネーターを勤めています。前回イラクを訪れたときには、拘束されている人々の虐待についてのCPTのレポートのために、拘束されている人々の家族からの証言をとり、また、基本的な法的権利を確保するためのレコメンデーションを作成する活動を中心としていました。行方不明になったときは2005年5月の(CPTの)イラク派遣団のリーダーとして活動していました。
彼は平和活動者であり、著述家であり、訓練を受けた調停人であり、トロントでは地域の紛争解決サーヴィス2件に積極的に関わってきた人物です。ホームレスの人々に住居と支援を提供する活動を何年も続けてきた人です。
CPTに宛てたパーソナル・ステートメントで、ローニー氏は次のように書いています。「平和の人としての私たちの行動は、すべての人々にとっての希望を表すものでなければならないと私は信じています。非暴力を実践することは、神の愛が私に働きかけることによるものであり、また私の周囲の人々にも同じように神の愛が働きかけるものであると私は願っております。」
ハルミート・シン・スーデン (Harmeet Singh Sooden)、32歳 カナダ、モントリオール出身
カナダ国籍の電気技師であるスーデン氏はマクギル大学で学び、将来は教える仕事に就こうと、現在はニュージーランドのオークランド大学で英文学の博士号取得を目指し勉強中です。芸術を好む彼はスカッシュも好み、地元ではスカッシュのコーチとしてパートタイムで働いていました。ご家族によると、穏やかで楽しいことが好きな人物で、世界各地の恵まれない人々の苦しみに熱心に取り組んでいることで知られています。空いた時間は、人々に教え助けることに惜しみなく捧げている人です。
Statement of Conviction
CPTの長期メンバーは、"Statement of Conviction"において、「イラク人も外国人も現在多くのリスクにさらされていることは承知している」旨、明言しており、また、そういったリスクよりもイラクに残るという目的のほうが重い、ということを確約しています。彼らは、「味方も敵も愛することにおいて、また、システマティックに抑圧されている人々を助けるために非暴力的に介入することによって、小さなことではあるが、この不安定な状況を変化させるために貢献することができる」という望みを表明しています。
〈以下、CPTについての説明の記述が続く〉
4)その後の動き
12月1日付けのガーディアン記事によると、4人を拉致している武装グループ(「真実の/正義の剣旅団」)からCPTへの直接のコンタクトはないとのこと。
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1654811,00.html
4人のうち、英国人のケンバー氏を除く3人は、CPTなどの活動でパレスチナにいたこともあるとのことで、パレスチナの各政党(Palestinian political parties)も連名で彼らの解放を求めるステートメントを出しています。
http://electronicintifada.net/v2/article4325.shtml(3人とパレスチナのかかわりについての説明)
http://electroniciraq.net/news/2208.shtml(ステートメント文面:アラビア語と英語)
一方、英国からは、彼ら4人の解放を求めて、アナス・アルティクリティ氏(Anas Altikriti)がイラクに向かいます。アルティクリティ氏はイラク系英国人で、英国ムスリム協会、STW、CND(the Muslim Association of Britain, Stop the War and CND)を代表する立場で、イラク入りしたあとはCPTに合流する予定。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4488498.stm
また、英国人のケンバー氏については、ロンドンのご家族がステートメントを出しています。ケンバー氏は1950年代に病院で働き始め、2つの博士号を取得してレクチャラーを経て教授になったそうです。ご専門は、放射能が骨の成長に与える影響について(He is an expert on the effects of radiation on bone growth.)。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4484574.stm
本題とはまったく関係のないことですが、ケンバー氏が教授をしていた「聖バーソロミュー病院」(愛称はBart's)は12世紀から続く病院(ロンドン最古)で、ロンドンのシティ(<地区名)にあります。医学校は19世紀半ばに設立され、1995年にクイーン・メアリ(ロンドン大を構成するコレッジのひとつ)と合併。病院はウィリアム・ホガースの壁画で有名で、一般公開もされています。
http://en.wikipedia.org/wiki/St._Bartholomew's_Hospital
http://www.hiddenlondon.com/stbartsmus.htm
http://www.24hourmuseum.org.uk/museum_gfx_en/AM24176.html
余談ついでに、「モンティ・パイソン」の一員、グレイアム・チャップマン(医学博士)もBart'sの医学校の出身です。
http://www.terry-jones.net/chapman.htm
カナダと米国の動きについては、ごめんなさい、時間がないので調べることができていません。
■リンク:
「P-navi info」さんでの関連記事
http://0000000000.net/p-navi/info/news/200511301429.htm
投稿者:いけだ
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