人を殺して/死なせて罰金6000ドル
2005年8月の当ブログの記事では、その将校の死にCIAの訓練を受けたイラク人準軍組織「サソリ」が深く関与しているということが中心でしたが、この件では米軍からも2人が軍事法廷に起訴されていました。
先ほどBBCのサイトを見てみたら、この件についての最新ニュースが上がっていました。
Iraq general's killer reprimanded
Last Updated: Tuesday, 24 January 2006, 11:26 GMT
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/4642596.stm
内容をかいつまんで書くと:
軍事法廷にかけられていた米軍将校の1人、コロラド出身のChief Warrant Officer Lewis Welshofer Jrは、殺人(murder)ではなく過失殺人ならびに職務怠慢(negligent homicide and dereliction of duty)で有罪となり、懲役刑ではなく罰金刑となった。罰金の額は6000ドル。(当初軍事法廷行きとなっていたもうひとりは、検察側の証人となって起訴を免れたようです。後述のDenver Post記事より。)
殺人罪であれば刑務所で終身刑となる可能性もあった。また過失殺人ならびに職務怠慢でも、最大で3年の懲役刑となる可能性があった。
死亡したイラク軍将校の死因は、ペンタゴンの検死によると、胸部圧迫と窒息。法廷では死亡時の状況について、イラク軍将校は縛られて寝袋に押し込まれ、米軍将校がその上に座って死亡したということが明らかにされている。
・・・・・・これが「過失致死」ということはつまり、「殺意はなかった」ということで、ということは、誰かを縛ったうえで袋に入れて身動きが取れない状態にしておいて、その上に座るということは「殺意があるからやること」ではない、ということになります。
ここ数ヶ月、米国に関してはそれこそ山のように「拷問」の記事が出ていますが(tortureに引用符つきで)、このイラク人将校の死亡した経緯についてもルーティーンということなのだろうか、と思うと暗澹たる気分です。
BBC記事(上掲)によると、被告側の弁護人はFrank Spinnerさん。この名前、なんかどうも見覚えがあるなあと思って検索してみたら、アブ・グレイブのときにSpec. Sabrina Harmanの弁護をした人でした。(下記はJune 25, 2004のCNN記事。)
http://www.cnn.com/2004/LAW/06/25/iraqi.prison.abuse/
Frank Spinner弁護士の経歴などについては、2004年5月30日のコロラド州の地方紙の記事を参照。かなり細かく書かれています。1998年にイタリアで起きた、「米軍機がゴンドラのロープを切断して20名死亡」という事故(→関連記事)で被告人の無罪を勝ち取ったのもこの弁護士だそうです。辣腕弁護士なのでしょう。
http://afa.gazette.com/fullstory.php?id=2642
このイラク軍将校死亡事件については、A Citizen of Mosul blogの1月24日記事(←このブログはモスルの女子高生ブロガーAunt Najmaのお父さんのブログ)で紹介されている、Denver Postの記事を読むと、位置づけを含め、全体像がはっきりするのではないかと思います。
If torture is standard, we're in for it
By Jim Spencer
Denver Post Staff Columnist
Article Launched: 01/18/2006 01:00:00 AM
http://www.denverpost.com/spencer/ci_3412267
*大意
現在、Chief Warrant Officer Lewis Welshofer Jrの裁判で示されているイラク軍のアビド・ハミード・マウフーシュ少将の検死写真は、すべてのアメリカ人が見るべき写真である。
これらの検死写真を見ると、かのアブ・グレイブでの写真でさえ、仮装パーティのように見えてくる。死体には全身にあざやみみずばれがあり、医師らは死因を窒息と断定した。
2003年11月の尋問でこのイラク軍将校を殺害したとして、Welshoferは起訴されている。実際の軍事法廷で起きていることは、一個人の恥ではない。国家の恥である。アメリカの原則はいったいどうなってしまったのか。
Welshoferの起訴事実は、マウフーシュ少将を寝袋に押し込め、電気コードで縛り、胸の上に座って口をふさいだ、というものだった。さらに、同少将はひどく殴打されていた。
世界各国に人権の大切さを説いて回っている米国が、これを行った。9.11の後、軍事的捕虜の扱いが苛烈なものとなることを、米国は政治面でも軍事面でも承認した。
Welshoferの裁判においては、検察側も被告側も、誰が責任を負うているのかを延々と議論していた。検察官のElana Mattは、被告人はマウフーシュ少将の扱いにおいて、「道徳面での優位を棄てた」と主張。証言が続くなか、アメリカの道徳面での優位は流砂のように思われてきた。
Welshoferはマウフーシュ殺害の罰を受けてしかるべきである。しかしながら、捕虜を寝袋やロッカーに押し込んだり口や鼻に水を流し込んだりといったことを許している政権や軍の指令系統は、当然の罰を受けることはない。証人の1人によると、「軍人以外」の人々(すなわちCIA)がマウフーシュが死亡する2日前に殴打したというが、彼らは起訴されてすらいない。
Welshoferの部隊司令官は、彼がいわゆる「寝袋テクニック」を使っていることを知っていた。証言と引き換えに訴追を免れた尋問担当者チーフのSgt. Justin Lambは、「びびらせる」尋問について語った。びびらせるために寝袋を使う方法は彼が考え出したものだ。閉所恐怖を狙って、相手の頭から寝袋をかぶせ、袋をしばり、それから床の上をごろごろと転がしながら質問をする。思ったような答えが得られない場合は、Welshoferであれば、胸の上に座って口をふさぐ――という次第だ。
検察側は、このようなことは常態化してはおらず、ひとりのはみ出し者(アウトロー)のカウボーイ的行動である、と主張。検察側の最も重要な証人のChief Warrant Officer Jefferson Williams(Welshoferとともに起訴されるはずだったが、証言することを条件に起訴を免れた)が、自分の知っているそのほかの尋問テクニックも、寝袋テクニックと同様な苛烈度でしたと述べる。Williamsはまた、マウフーシュが死亡する2日前にゴムホースで殴打が行われた際、自分は席を外したが、叫び声は聞こえてきた、と述べる。また、終わったあとは「4~5人」で少将を「おり」に運んでいくのを見たとも述べる。
同様に、WelshoferはWilliamsにマウフーシュを絶命させた尋問に加わるよう誘い、Williamsはそれに応じたが、まずコーヒーを入れてこなければならなかった、とWilliamsは語る。Welshoferはマウフーシュの頭に寝袋をかぶせたとき、Williamsは2杯目を入れにいった。
こういったことは、何らたいしたことではなかったようだ。
ということは、軍事捕虜の人道的扱いという問題は、すべてのアメリカ人のものだということになる。寝袋テクニックが米軍の兵士に対して用いられた場合、悪いことだと思うだろうか?
「本当のアメリカはこんなふうじゃない」という(おなじみの)トーンで貫かれた記事ですが、もし事態がそうであるならば、それを何とかできるのはアメリカ自身を置いてほかにはありません。
2001年9月11日から2003年、2004年にかけての「アメリカ人なら、まずはアメリカを愛することから始めよう」的な愛国論が、2005年以降、アメリカのメディアで影をひそめてきていることは確かです。
しかし、人間1人を、情報を得ることを目的として殴る蹴るといった暴行を加え、さらには呼吸ができない状態にして殺して/死なせておいて、罰金6000ドル。これはあんまりじゃないでしょうか。(6000ドルはだいたい70万円弱ですかね、今のレートで。)
余談:
先日――といっても数週間前ですが、CIAが金を出して記事を書かせていたという件について、あるイラク人のブログで「本当のことを言えば不信感が高まるという状況では、もっと情報のコントロールが必要だ」と書かれているのを見てひっくり返りました。コメント欄で複数の人が「それは違う」「そもそも不信感を持たれるようなことをすべきではない」とツッコミを入れていましたけどね。(そのイラク人のことを批判したいわけではないのでどのブログかは書きませんが、JarrarさんたちとかRiverbendとかMosulの家族bloggerとかではないことだけは書いておきます。)
投稿者:いけだ
<< Home