英軍はアブ・グレイブの尋問テクニックのことを知っていた。
要点だけをまとめると,2003年9月に連合軍司令部が作成した尋問方針の内容を知っている英軍将校がいる,ということです。英国政府はこれまで「アブ・グレイブの件については英軍は何も知らない」と述べてきていたのですが,野党のウェールズ国民党所属の国会議員が国防閣外相に送った質問状の回答で,英軍が米軍の方針をまったく知らなかったわけではないということが明らかになりました。
刑務所での拷問規定に英国も関連
UK link to torture jail's rules
Jamie Doward
Sunday February 20, 2005
The Observer
http://observer.guardian.co.uk/uk_news/
story/0,,1418624,00.html
米軍によるイラク人収容者に対する拷問(torture)の使用をめぐって物議をかもしたバグダードのアブ・グレイブ刑務所における,苛烈な尋問テクニックを許可した規定の草案作成に,英軍将校も関わっていた。
昨晩(英国時間19日)明らかになったところによると,犬を使う,眠らせない,負担のかかる姿勢を取らせるといった,ジュネーヴ条約に違反した尋問手法を,拘束されている人々に対して刑務所の警備担当者が用いることを許可した決定的な文書には,英軍将校は誰一人として関わっておらず,またその文書を見た者も英軍将校にはいないとする主張を,英国政府は取り下げることを余儀なくされた。
昨年,警備担当者が強制的に収容者を裸にして性的な行為をまねさせている写真が明らかになり,同刑務所は悪名をとどろかせた。また,収容者が犬をけしかけられ噛まれている写真もある。
英国のアダム・イングラム国防閣外相(The Armed Forces Minister*1, Adam Ingram)は,ウェールズ国民党(Plaid Cymru)所属のアダム・プライス議員*2に宛てたレターで,バグダードの連合軍法務局配属の英陸軍の法律家が,その文書の草稿の作成時に「自身の上官からのコメント」を寄せたということを認めた。
当該の将校が文書に賛成していたのか反対していたのかはわかっていないが,関与があったことが判明したことにより,英陸軍の指揮系統の誰が,アブ・グレイブで用いられた尋問テクニックのことを知っていたのか,またその時期はいつかということについて,重大な疑問が持ち上がっている。
当該の英軍将校は,週に一度上官に報告しており,拘束者の扱いを規定している国際法が守られていないと感じた場合には,上官に知らせる責任があった。
プライス議員は「政府が今,以前の声明は不正確であると認め,英軍の上級の法務担当者が草稿作成段階で何らかの役割を有していたことを認めるとは,非常に憂慮すべき事態です」と述べた。「感覚遮断などのテクニックを用いることは英国の軍法に照らして違法です。ジュネーヴ条約違反でもあります。警告のベルはなり続けていたはずです。米軍の行動に英軍の指揮系統は注意を向けているものと思っていたのですが。」
問題の文書は,「尋問と対レジスタンス・ポリシー(Interrogation and Counter-Resistance Policy)」と名づけられているもので,イラク人拘束者の尋問を監督する連合軍司令部(the coalition's Combined Joint Task Force 7 (CJTF))によってまとめられた。同文書にはグアンタナモ湾(=キャンプXレイ)で用いられているテクニックから多くが流用されている。同文書は2003年9月14日に書き上げられたが,承認されるまでにいくつかの草案が作成されている。
米軍の尋問テクニックの使用について米当局が行なった調査の結果であるフェイ・レポート(The Fay Report:04年8月のBBC記事からPDFファイルへのリンクあり)では,連合軍司令部はグアンタナモで用いられている尋問テクニックを「ほぼそのまま写した」としている。これに加えて,尋問ポリシーの文書をまとめた将校らが用いるべきであると考えたほかのテクニック,すなわち「犬を使うこと,負担のかかる姿勢を取らせること,どなりつけること,大音量の音楽を流すこと,照明を利用すること」といったものが,相当数付け加えられている,とフェイ・レポートは述べている。
米当局は,連合軍司令部の文書によって現場で用いられた尋問ポリシーは,収容者の虐待に「間接的につながった」と結論付けている。
(2003年の)10月12日に,その頃にはすでにアブ・グレイブ刑務所内では虐待(a culture of abuse)が表面化していたが,米中央軍司令部(Centcom)が当該文書の内容に非常に驚いたために,文書をトーンダウンするよう命令している。
2003年7月から2004年1月にかけて連合軍法務局に配属された当該の英軍将校の氏名は,英国防省は明らかにしていないが,連合軍上級法務顧問で米軍のリカルド・サンチェス司令官への報告を行なっていたマーク・ウォレン大佐(Colonel Marc Warren)に報告をしていた3人の副官の1人であると理解される。サンチェス司令官は,アブ・グレイブで起きていたことについては,2004年1月に軍の査察官に写真が渡されるまで気づかなかったとしている。
イングラム閣外大臣は,プライス議員へのレターの中で,昨年国会での答弁書2通において政府は間違って「英軍将校は当該文書の作成には参加しておらず,当該文書を目にした者もいない」と述べていたことについて,遺憾の意を表明した。
プライス議員は,現在国防省に対し,アブ・グレイブで用いられた尋問テクニックについて知っていたのは軍の階級の中のどの人物で,それはいつだったのかを明らかにするよう求めるレターを書いている,と述べた。
「グアンタナモ湾で用いられたテクニックに基づいたアブ・グレイブでの新たな尋問ポリシーは,その英軍将校が上官に報告しなければと感じるようなものだったというのが事実ではないかと思います。指揮系統のどこが関わっていたのかについて,はっきりとしたことを私たちは知らなければなりません」とプライス議員は述べた。
【注】
*1:
英国の国防省の「大臣」はministerではなくsecretary(The Secretary of Defence)で,ministerは閣僚ではない「閣外大臣」。ちなみに国防大臣はジェフ・フーン(Geoff Hoon)。
*2:
アダム・プライス(Adam Price)議員は,2004年夏にブレア弾劾の動議を出した議員です。→そのときの私のウェブログ記事|BBC記事|プライス議員に賛同した保守党のボリス・ジョンソン議員の書いたもの
一連の拷問/虐待をめぐる米軍の文書については,The National Security Archiveなどにまとまっています。
英軍の拷問テクニックについては,北アイルランドでの例(シン・フェイン党のジェリー・アダムズ党首の体験談)があります。少し引いておきます。
服を脱がされ,頭に黒い袋をかぶせられた者もいる。袋は光を完全に遮るもので,頭から肩までこれをかぶせられるのだ。壁に向かって四肢を広げて立つと,脚を下から蹴られる。睾丸や腎臓を警棒や拳で殴られ,股間を蹴られる。ベンチに寝かせられ,身体の下にラジエータや電気ヒーターが置かれる。腕がねじ曲げられ,指がねじ曲げられ,肋骨をしたたかに殴られ,肛門に物を突っ込まれ,マッチで火をつけられ,ロシアン・ルーレットをやらされる。ヘリコプターに乗せられ宙吊りにされた者もいた。中空高く飛んでいると思っているが,実は地上5~6フィートでしかなかった。彼らは常に袋をかぶせられ,手錠をかけられ,途切れることのない高音のノイズを聞かせられていた。
出典:「私も拷問写真に写ったことがある――アブ・グレイブはアイルランドのリパブリカンにとっては驚くべきものではない」
カウンターパンチ,2004年6月5/6日号(日本語化はいけだによる)
投稿者:いけだ
2005-02-24 21:26:18
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