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2005/03/04

開戦時の英国司法長官の判断について(ガーディアン,2月24日)

1つ前の記事のフォローアップ。2003年3月17日の司法長官の国会答弁を書いたのは司法長官ではなく,ブレア側近であるとのガーディアンの判断根拠を述べた記事。

Transcripts show No 10's hand in war legal advice
Richard Norton-Taylor and Michael White
Thursday February 24, 2005
http://politics.guardian.co.uk/iraq/story/0,12956,1424130,00.html

司法長官のゴールドスミス卿から非公式に,公的な調査委員会に提出された証拠のトランスクリプトには,卿の名前で国会に示されたイラク戦争の正当性についての決定的なアドバイスが,卿に代わってトニー・ブレア首相の側近中の側近2名によって書かれたものだったことを示唆している。

本紙が見たその文書には,司法長官とバトラー卿【=2004年の「バトラー・インクワイアリ」の責任者】との非公式の会話が示されている。その会話はイラクに対する戦争に至る段階での情報の利用についての調査の過程で行なわれたものである。

その会話において,司法長官は,侵略への英国の参加を法的に裏付けた自身の国会答弁について,当時の内務ministerであるチャールズ・ファルコナーと,首相付きdirector of political-government relationsであるバロネス・モーガンによって「定められた(set out)」ということを示している。

このバトラー証拠と明らかに矛盾するが,司法長官は昨日,首相官邸が自身の決定的なステートメントに対し何らかの影響を与えたということを否定しようとしている。

「ナンバー10(=官邸)があのステートメントを書いたなどと取りざたするとは,ナンセンスである」と卿は発言した。

さらに卿は,「軍事行動はすでに存在していた国連安保理決議のもとにおいて合法であるというのは,純粋に私自身の,誰からも影響されていない見解(view)であった。国会でのステートメントは純粋に私自身の見解であり,あのような見解を示すようにとの圧力はかけられていない」と述べた。

ゴールドスミス卿はバトラー卿に対し,軍事行動の合法性に関する自身の新たな――変更された――見解のことを,2003年3月13日にダウニング・ストリートでの会合において,ファルコナー卿とバロネス・モーガンと話し合った,と語った。

ゴールドスミス卿はまた,バトラー・インクワイアリーに対し,その会合の記録がとられているかどうかはわからないと語った。【次の1文は現在形で】メモは一切取られていないことは明白であるように思われる――バトラー調査委員会の最終報告書には省略箇所が示されており,それは「非公式なものであり,政府の手続きの性質上公表は控えるべきもの」と同調査委員会が呼んでいる懸念を表している。

昨日のコメントに照らしてみると意外なことに,ゴールドスミス卿はバトラー・インクワイアリーに対し,「むろん彼らは端的に」3月17日の国会ステートメントの「私の見解を定めた」と語っている。このステートメントは貴族院(上院)にて,ゴールドスミス卿の名前のもとに文書のかたちで公表され,庶民院(下院)にはゴールドスミス卿の法的「意見(opinion)」として閣僚らによって示された。労働・保守両党の要職にある下院議員たちは,ゴールドスミス卿のステートメントに助けられて軍事行動に賛成する票を投じることに傾いたのだということを,はっきりと述べている。

2003年のイラク戦争の合法性についての司法長官のアドバイスをすべて開示せよという要求が改めて出されているが,昨日ダウニング・ストリートはそれを払いのけ,この件についてのゴールドスミス卿の判断,見解および言葉はすべて卿自身のものであり,官邸のものではない,と主張した。

しかしゴールドスミス卿の行動を弁護する者はほとんどいない。というのは,卿は必要とされていたものに沿うように動いていたからだ。「まったく見苦しい行動でしたが,この業種(=司法の世界)でこんなことをしたのは,ゴールドスミス卿だけでしょうね」と,あるウェストミンスター(=政界)の有力者(one senior Westminster source)は語った。

ロビン・クック前外相は昨晩,自身は戦争が始まる前日に(院内総務を)辞したため,閣僚に対しゴールドスミス卿が法的な説明をするのを聞いていない,と語った。「2番目の意見を正式にお書きになったことはないのではないかと思っています」とクック前外相は本紙に語った。

本紙とのインタビューの前にクック前外相はチャンネル4ニュースで次のように語った。「今回のことが明るみに出て私がびっくりしたのは,公に私たちが目にした唯一の法的説明である司法長官の答弁のドラフトを書いたのが,首相官邸の2人の政治家であったということがわかった,ということです。」

「これは私の目にはまったく不適当なことに見えます。」

ロンドンのクイーン・メアリ・コレッジで現代史を教えるピーター・ヘネシー氏は,戦争に至る数日の間の閣僚らの振舞いは,「実に驚異的だった(truly breathtaking)」と表現した。それは「政府というシステム全体」に影を投げかけるものだとヘネシー氏は述べている。

国際法律家もまた,ゴールドスミス卿と首相官邸との近しい関係に疑問を投げかける。「ゴールドスミス卿の立場の性質上,卿の2つの役割が――政治家の役割と法律アドヴァイザーの役割が――ときにはまったく正反対の方向に引っ張り合うことにもなります」と,ロンドンのユニヴァーシティ・コレッジで公法を教えるジェフリー・ジョウェル氏は語る。

ゴールドスミス卿は,2003年初めには,新たな国連安保理決議のない場合のイラクに対する軍事行動の合法性について疑問を抱いていたことが知られている。2003年3月7日にゴールドスミス卿はブレア首相へのアドバイスを書面にまとめているが,それは第二の決議がない場合のイラク攻撃は,国際法廷では違法と判断される可能性があると警告するものだった。

ゴールドスミス司法長官が戦争について法的アドバイスを公式に書面に書いたのは,これが最後のものだったようである――政府がこれまで繰り返し,公表を拒んできているアドバイスである。

3月13日にゴールドスミス卿は第二の国連決議が必要との自己の見解を棄て,国連決議のない場合でも結局は侵略は合法であるとの見解を示すようになった。

【過去と現在の比較一覧】
■2004年5月にバトラー・インクワイアリーでゴールドスミス卿が述べたこと:

バトラー卿:(3月7日の後は)イラクについては正式なアドバイスは出しておられませんね。

ゴールドスミス卿:私は(自分の)見解を述べました……3月13日の,バロネス・モーガンとファルコナー卿との会合の場でです。


バトラー卿:それは公式に議事録に記録されていましたか?

ゴールドスミス卿:それは申し上げることができません。首相官邸があの会合について記録を持っているかもしれませんがそれがどのようなものかを私は知りません。もちろん彼らは端的に,国会答弁での私の見解を定めました。(They shortly, of course, set out my view in a PQ.)


■昨日ゴールドスミス卿が述べたこと:
国会でのステートメントは純粋に私自身の見解であり,あのような見解を示すようにとの圧力はかけられていない。官邸があのステートメントを書いたなどと取りざたするとは,ナンセンスである。




以下は細かな補足です。

上記文中で「侵略」という日本語を宛てた語は,原語(英語)ではinvasionです。日本語で「侵略」というと合法も非合法もないだろうという印象があるかもしれませんが,英語では,lawful invasion,つまり「合法的侵略」という表現も不可能ではないようです(Googleでフレーズ検索)。上記文中にはこのような表現が出てきますが,とにかく機械的にやりました。なので,もし違和感があるとするなら,それは機械的に訳語を当てはめた私の方法のせいだと思います。

なお,国際法ではいわゆる「侵略」はaggression「攻撃」(通例“自分から手を出す”ことをいう)という語が用いられているんではないかと思います……ICC(国際刑事裁判所)の「侵略の罪」は,英語ではthe crime of aggressionです。

投稿者:いけだ
2005-02-26 22:04:20