ファルージャでの選挙準備(IRIN)
IRINとはIntegrated Regional Information Networksのこと。国連の関連機関で,人道面での問題をめぐる世界各地の情報ネットワーク。
ファルージャでの選挙準備
Focus on election preparations in Fallujah
Report, IRIN, 28 January 2005
http://electroniciraq.net/news/1832.shtml
またはhttp://www.irinnews.org/report.asp?
ReportID=45276&SelectRegion=Middle_East&SelectCountry=IRAQ
ファルージャ発――イラクでの投票日に先立つこと2日,金曜(28日)に在外イラク人が投票を済ませたが,首都バグダードから西に60キロのところにあるファルージャの市内および周辺にいる多くの人々は,依然として,どの候補にも支持を与えようという動きはない。
ファルージャの人口は30万だが,そのうち20万人近くの人々がファルージャを離れざるを得なくなり,市周辺の各所に滞在している。生活状況が劣悪なため,ファルージャに戻った家族はほとんどない。
多くの人々が依然として一時避難している状態であり,市周辺の臨時施設で必要最低限のものしかない状況で暮らしている。ファルージャは2004年11月9日以降の米軍と反乱者との間の戦闘で1ヶ月以上にわたり苦しんだ。
その結果,数千軒という家屋や商店,行政機関が破壊され,イラク赤新月社ではこれを人道上の大災害(humanitarian disaster)であるとしている。
ファルージャにおける投票
イラク政府【訳注:暫定政府のこと】は,一時避難している人々は,どこにいるにしても,最近ファルージャに戻った人々と同じく,選挙権を得ると述べていた。投票所は米軍とイラク軍の厳しいセキュリティのもとにある。
the Higher Independent Electoral Commission (HIEC)の副委員長,ファリド・アヤール(Farid Ayar)は,IRINに対し,ファルージャ,ラマディ,バグダードの東にあるサマラ,バグダードの北にあるモスルでも選挙は行なわれると語ったが,攻撃を避けるため,これらの地域の投票所の位置は当日まで明かされない。
さらに彼は,プロセスを迅速にするために,ファルージャ住民が滞在しているキャンプに当日の早朝に選挙の専門家グループが派遣されることになっている,と付け加えた。この選挙の立候補者数はおよそ18000,リストにある政党の数は256である。
イヤド・アラウィ首相【訳注:暫定首相のこと】は,水曜日,バグダードから180キロ離れたサラディン・シティでの記者会見で,スンニ派とシーア派の違いはイラクにおいて存在するはずもないものであり,ファルージャからの人々に対し,自分たちもイラクの一部であるのだと示すために選挙に参加するよう呼びかけた。「違いは私たちに日々の糧を与えない」とアラウィ首相は言った。
投票に気が向かない
破壊された都市【訳注:ファルージャのこと】の住民の何人かは,IRINに対し,投票には行かない,なにしろファルージャであのようなことがあった後なのだから,と語った。
彼らは,選挙は彼らのニーズなど一顧だにしないに違いないオーソリティの利となるであろう,と言う。「米軍が住民に対してファルージャのドアを再び開いてから1ヶ月近くになりますが,私たちの力になるようなことは何も為されていない」と,ファルージャ住民のアッバス・アル=クバイシ(56歳)はIRINに語った。
「ほとんどの家族が家もなく,彼ら〔連合軍とイラク政府〕は選挙がうまく運ぶようにするにはどうしたらよいかは知っていても,ファルージャを助けるにはどうしたらよいかは知らない」と,彼の家の天井は吹き飛ばされており,水道も電気もないのだと,彼はさらに続けて言った。
水資源省の高級官僚によれば,彼らはできうる限り早くファルージャに給水するために米陸軍工兵隊と協同で鋭意作業中であり,上下水道復旧のための米ドルにして1100万ドルのプロジェクトが進行中であるとのことである。
付け加えて,首相府の高官は,米ドルで2000~10000ドルがファルージャ住民に対し補償として支払われると述べている。
ファルージャの電力システムはすべて作り直されねばならないし,巨額の投資が必要である,と電気省高官はIRINに語った。
復興省の上級官僚であるマフムード・ヤクーブは,IRINに対し,ファルージャでは凡そ50000軒のうち,15000軒近くの家屋が完全に破壊されていると述べた。
「ファルージャはゼロから再建されると言っていただいてよろしいでしょう。まったく驚くべきことですが,これが現実です。私たちはファルージャ住民のみなさんに安全な環境(shelter)と基本的な設備を提供すべく,鋭意取り組まねばなりません」と彼は語った。
イラク赤新月社の職員たちは,12月22日に紛争が終結した後に,物資を届けるのが大変だったと語り,また,食料や毛布,水を積んだコンボイでファルージャに到達したのは1つだけだったと語った。彼らは,住民たちおよびファルージャ周辺でキャンプ生活を余儀なくされている人々には,それよりもっとたくさんの量が必要だったと強調した。
米軍第一陸戦隊(the 1st Marine Force of the US army)のマーク・スコッチ中佐は,IRINに対し,ファルージャは特別の注意を向けられているが,損害が非常に大きいために住民の側にも忍耐が必要とされるプロセスなのだと述べた。また,選挙は極めて安全な環境で行なわれると述べた。
「当該エリアのイラク人の皆さんが,新たな政府を選ぶに際して安全であるよう保証するため,我々は最善を尽くします。選挙には参加しなければなりません。自分たち自身の生活において極めて重要なステップなのですから」とスコッチ中佐は述べた。
また中佐は,このプロセスは極めて微妙なものだが,安全を確保し,当該エリアに反乱者が近寄らないようにする準備を進めているとも述べた。
現在の状況
ファルージャ上空では今でもまだ戦闘機が耳をつんざくような轟音を立てており,米軍の数も多い。まだ壊れずに残っている数少ないドアウェイから子どもたちが顔を出している場面もあり,戦闘開始の前後から出たガラクタ(rubbish)で遊んでいる子どももいる。一般家族は基本的な物資が必要であり,暖房のための電力も燃料もないので寒さで参っていると言っている。
選挙の候補者は,この地域では一切のキャンペーンを行なっていない。治安が悪いためである。また住民は,この選挙はいかに進むのかさえも知らないと言っている。
さらに,この地域で支配的なスンニ派の政党が選挙のボイコットを呼びかけている。反乱者はファルージャ周辺の地域に,住民は投票することを禁じる,投票する者は攻撃対象とする,と書かれたビラを配っている。
「ファルージャの〔多くの〕人々は投票しないと思います。なぜなら,彼らはまだ政府から何も受け取っていないし,そのために住民たちの怒りはますますつのっているからです。私たちは安全は保証しますし,ファルージャの方々にも投票に来ていただきたいのですが,そうはならないでしょうね」と,内務副大臣のサバー・カダムはIRINに語った。
破壊された都市の住民たちは,一切の進展が見られない場所で,選挙はあまりに時期尚早であると言う。
「彼らは選挙について話をしてます。けれども,スンニ派の兄弟たちが選挙から手を引いてしまい,戦闘で失ったものの補償も今に至るまで受け取っていないのに,一体私たちに誰に投票しろと?」と,ヌール・アイダンは言う。彼には4人の子どもがあり,12月以降ファルージャ北東のアミリヤット・アル=ファルージャでキャンプ生活を送っている。
「私たちが信用できる人など誰もいません。私は家族といっしょにテントに留まります。そうすれば少なくとも,後になってから,私たちを助けるために何もしない人に投票してしまったんじゃないかなどと思い煩うこともありません」と彼は強い口調で述べた。
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Page last updated: 28 January 2005, 15:16
上記とはあまり関係ないのですが……。
土曜日に朝の民放の番組をぼーっと見ていたのですが,テレビで時々見かける「専門家」が,「この選挙は正当性を問うものではなく,イラクのまとまりを示すためのもの」「イラク人自身が選挙で選んだ人たちが政治を行なえば,自分たちで国を再建するのだという気持ちになる。それが大切」ということをしゃべっていました。あと,スンニ派とシーア派の対立がどうのこうのとも……。
途中で聞いていられなくなってスイッチを切ってしまったのですが,そもそも選挙は正当なものであることが前提,その上で不正がないことが前提(ウクライナの「不正選挙→やり直し」は記憶に新しいところです)。選挙自体が正当なものだということを疑わせるあれやこれや,これまでもここや他の情報源でいろいろと書かれてきています。また選挙というプロセスにおける不正という点に関しては,こんだけ状況が混乱していたら不正の入り込む余地がないわけがないと私は思うのですが,これはペシミスティックに過ぎますか?
さらに,「イラク人自身が選んだ人たち」って,候補者の顔も名前も十分にわからない状態で,「私たちの代表」と思えるかどうか?
さらに,「スンニ派とシーア派の対立」は,一体いつ生じたのか?
「国としてのまとまり」? それを分断したのは……むろんサダム・フセインの弾圧が「国としてのまとまり」をもたらしていたとは言えないにせよ,複数のイラク人のウェブログ(現在,選挙支持の人たちも選挙に反対の人たちも――2003年から読んでますが)から判断するに,分断は以前からあったわけではない。
2004年4月,ファルージャが第一回目の包囲攻撃にさらされたとき,ファルージャの病院は医薬品も輸血用血液も足らなくなりました。そのとき,バグダードのスンニ派の大きなモスクが支援の拠点となったのですが,そこには南部を含め,シーア派の人々からの物資が寄せられ,スンニ派もシーア派も献血したそうです。そのとき彼らは「スンニ派もシーア派もない,私たちはイラク人だ」と言っていました。
「イラクとしてのまとまり」のための選挙であるのなら,どうして?
2004年11月にガーディアンに掲載されたナオミ・クラインの記事から引用(全文はここ)
2003年11月11日,当時の米国特使の責任者だったポール・ブレマーはワシントンに飛んで,ジョージ・ブッシュと会談した。この2人が気にしていたのは,イラクで向こう数ヶ月以内に選挙を行なうという自分たちがした約束を守るとすれば,イラクは充分に親米的ではない勢力の手に落ちるだろう,ということだった。
そんなことを言い出したら,侵略の目的が破れ,ブッシュ大統領の再選の可能性が危うくなるだろう。この会談でプランの変更が考案された。選挙は1年以上延期し,その間,イラクの最初の「主権」を有する政府が,ワシントンの手で選ばれる。このプランなら,ブッシュ死の選挙運動にもいい方向で利用できるし,同時にイラクを確実に米国のコントロール下に置いておくこともできる。
「国としてのまとまり」を壊すことで“得”をした勢力は,米国だけじゃないんじゃないかと私は思っていますが。。。
投稿者:いけだ
2005-01-29 13:31:44