イラクの青年,シャギー(Joe Carr, EI記事)
シャギー――24歳,イラクの青年
Shaggy
Joe Carr
Electronic Iraq, 6 June 2005
http://electroniciraq.net/news/1996.shtml
またはhttp://www.lovinrevolution.org/の4 June, 2005
シャギーとスクービー(写真:ジョー・カー)
彼は24歳。パレスチナ系イラク人。彼の物語は尽きることがない。僕らは毎週恒例で木曜日にビールと音楽と冗談の時間を過ごすのだが,僕としてはいつも,彼の体験してきたことを聞いては驚き,同時に,それでも彼がまともであり続けていることに驚愕している次第。
彼の家に行くことは楽しい。お母さんは詩人でありアクティヴィストであり,そして本当に優しい。お父さんはかつてはファタハの政治部門・軍事部門の高官で,レバノンとヨルダンでイスラエルとの戦闘に関わったことがある。お父さんは僕を自宅に歓待してくれる。「私はきみの父親で,息子たちはきみの兄弟だ。ここはきみの家だ」と彼は僕に言うのだ。シャギーとその弟(僕は「スクービー」と呼んでいる)は,まさにこれを読む人が一般的にイメージするような男子大学生だ。自室はメタリカだのエミネムだのといった落書きで飾り立てられ,フーカ【訳注:水タバコのための喫煙道具:画像いろいろ】のコレクションが自慢げに飾られている。彼らのフーカのひとつは車専用だ。
シャギーとスクービーは自分たちの「ハンヴィー」でドライヴするのが大好きだ。といってもその「ハンヴィー」は錆だらけの「83コロナ・デラックス」【訳注:トヨタの乗用車】で,かろうじて何とか走ってる程度の,今にもぶっ壊れそうな車だ。彼らは路上でいろいろなことに遭遇した。イラクで車を運転する人たちは,神出鬼没に現れては近くによりすぎたものは何でも撃つという流儀を持つ車列のことを恐れながら,暮らしている。シャギーは,危うく兵隊たちをびっくりさせそうになったことが何度もあったよと言う。
一度,シャギーがいとこと一緒に車に乗っていたとき,イラク警察の臨時の検問所にかかったことがあった。いとこが突然,許可なしで拳銃を持ってるんだけどと打ち明けたので,ふたりはだんだん不安になってきた。警察はその拳銃を発見したが,構わないと言った。しかし警察は彼の携帯電話を取り上げ,それは返却しないと言った。そして,シャギーのいとこから警察が携帯電話を盗ったのはこれが2度目だとわかった。新しいイラク警察の中では〔このような〕窃盗や腐敗があるんだという話は多い。
ガソリンを得ることは冒険だ。状況がよくなっているから給油待ちの車の列はかなり短くなったが,それでもイラクの人たちはだいたい20分くらいは給油待ちの列に並ばなければならない。現在のガソリンの価格は1リットルあたり50イラク・ディナール(2セント相当)なので,〔米国式に言えば〕1ガロンで7セントだ。シャギーはだいたい1ドル相当で,満タンにしている。
〔2003年3月から4月の〕米軍の侵攻の間,シャギーは救急隊員として働いていたのだという。何もかもが無茶苦茶になっていて,医学生やその辺の研修医が救急を管理し,瓦礫の下から死体を引っ張り出していた。うちのチームで5000から6000の死体を発見して埋葬したよ,とシャギーは言う。そのうちの90パーセントが一般市民で,60パーセント以上が女性と子どもだった,と。
自分の家のある地区が爆撃されたことを,彼は非常に鮮明に覚えている。「あるとき,すごいでっかい黄色い雲のような煙が立ってたんだけど,あれはある種のウラン兵器だった。現場に行ってみると,家々のはほとんど跡形もなくなっていた。14人が家の中にいたんだけど,何も残ってなかった。ただ瓦礫があっただけ,あと挽き肉みたいなもの。あのあと3ヶ月は肉は食えなかった。焼いた肉のにおいがどうもダメで。」
翌日,米軍の放射能クリーンアップ部隊が,現場からすべてのものを除去したという。国際法のもとでは非合法だが,米国は普通に,劣化ウラン(DU: depleted uranium)兵器を使う。信じられないほど強く重い金属だからだ。劣化ウラン弾のダスト(粉塵)はイラク人の間で非常に甚大な健康問題を引き起こしている。イラク人だけじゃない。連合軍の兵士の間にもだ。
通常,米軍は劣化ウラン弾のあとをクリーンアップしたりしない。だからこの話は,ひょっとしたら米軍はイラク侵攻の間に小型核兵器をテストしたっていう証拠なんじゃないかと,僕としては思うわけだ。
シャギーは,米軍の化学兵器によるおそろしい光景のことも話して説明してくれた。「男の人がひとりいたんだけど,まだ息があるのに,肉がだんだんと溶けてくんだよね。映画に出てくるみたいな感じで。数時間の間に骨だけになってしまった遺体もあったよ。髪の毛から身元を確認するしかなかった。」
この仕事はとても危険だとシャギーは言った。これまでにこんなに死に近づいたことはない,と。「米軍は,爆撃をした場所を,45分後にもう一度爆撃することが多かった。だからたくさんの救急隊員が死んだし,一般市民や,何事かと様子を見に来た人たちが怪我した。」それらの攻撃によって彼は腕を負傷している。彼はその傷跡を僕に見せた。「飛行機が来る音がしたから走り出した。ミサイルが当たったとき,爆発で身体が宙に吹き飛ばされた。どうにか無事着地できてたみたいで,自分が無事でよかったと思った。信じられないよと思いつつ立ち上がると,石やら金属片やらが大量に,あめあられと降り注いできてさぁ」と,彼は笑いながら言った。
キャンプ・リマでのメモリアル・デーの礼拝のあと【訳注:キャンプ・リマはカルバラ近郊の米軍キャンプ。同じ筆者の6月2日記事参照】,シャギーは「忠誠の誓い(the Pledge of Allegiance)」を教えてよと言った。彼は実際に暗記してしまったのだが,おかげで米軍の検問所をいくつか通過できたよと言う。
先日の夜,シャギーが夜間外出禁止の時間になっても家の外で水タバコをふかしていたときに,米軍のパトロールが尋問しに来た。「何をやってる?」とパトロールはシャギーに尋ねた。「水タバコを」とシャギーは答えた。「夜間外出禁止だぞ,家の中でやれ」とパトロールが言う。「ここは僕の持ち家ですから僕にはここに座っている権利があります」」とシャギーは彼らに告げる。米軍パトロールはシャギーの英語がとても上手なことに気づき,どの州の出身だと尋ねる。実際には彼はイラクの外には一度も出たことがないと知り,彼らは非常におもしろがる。そして,とシャギーは言う――彼らも座り込んで,僕と一緒にしばらく水タバコをやってった。マリファナだと思ったんだよね。
シャギーはげらげらと笑いながら話した。「ひとりがさ,『ハイにならないんだけど』とか言ってさ,だから『うん,だってただの香りつきタバコだもん』って答えたらさ,ほかの兵隊たちがもう大爆笑。」
イラクの若者たちは,自分たちの生活はまともだと思いたがっている。けれど,彼らは常に,暴力/攻撃と拘束の危険のある中を,生きている。最近,スクービーと友人たちが突然の銃撃戦の真っ只に何故だか居合わせることになったということがあった。ひとりが撃たれ,みなで病院に運んで手当てを受けさせたが,それは夜間外出禁止の時間だった。イラク警察の車両が彼らの自宅までエスコートすることに同意したが,彼らのタクシーの運転手は酔っていて,ついていくべき車列を間違えてしまった。グリーンゾーンに向かう車列の後についてしまったのだ。警察は彼らのことを怪しいと考えて逮捕した。しかし幸いにも,スクービーが事情を説明することができたので解放された。翌朝シャギーがスクービーを迎えに行った。
シャギーが一番やりたいこと。それはアメリカに行くことだ。自分にはそのチャンスがないし,それにイラクの文化は保守的だということで,彼は息の詰まるような思いをしている。
彼のような若いイラク人は本当にたくさんいる――記憶につきまとわれ,暴力によって傷を受け,自身のイラクの根と西洋の枝との間で引き裂かれている。
どうか,いつか彼の願いがかないますように。
Page last updated: 6 June 2005, 03:05
蛇足ですが,最初の写真について解説しておきます。シャギーとスクービー兄弟の背後の壁に書かれている文字は,「メタリカ」です。アメリカのバンドです。どんな感じの音かってのは,検索結果のトップに来てたページを開くと少しだけ聞けます(多分Flashプラグインが必要です)。いきなり音が出るので,音量に注意してください。
で,このメタリカは,昨年こんなニュースに出てきています。
イラクのファルージャに駐留中の米軍はちょっと変わった音楽の使い方をしているようだ。Arrow1007 FMなどによれば、米海兵隊が軍用車のスピーカーからAC/DCなどの曲を大音量で流しているという。これはスンニ派イスラム教徒の戦闘員に対する心理戦法の一つ。イスラム圏ではこうした音楽がないため、戦士の神経をすり減らす効果がある。米軍は先週末、同市で起きている膠着状態を、この戦法で打破しようと試みた。AC/DCの曲は同時に闘う米兵の志気を高めている。イラク戦では特に彼らのアルバム『Balck in Black』('80年)収録の「Hell's Bell」「Shoot To Thrill」が効果的とのこと。また、AC/DCのほか、ジミ・ヘンドリックス、メタリカといったアーティストの曲が使われている。
米軍がハードロック、ヘヴィメタルを軍事使用したのはこれが初めてではない。米諜報機関は昨年、イラクの捕虜から情報を聞き出すためにメタリカの「Enter Sandman」を浴びせたという。また、'89年にはパナマの独裁者、ノリエガを投降させるためにガンズ・アンド・ローゼズの曲が使われている。
T.Kimura
[BARKS 2004年4月20日]
http://music.yahoo.co.jp/rock/music_news/barks/20040421/lauent011.html
メタリカやAC/DCやジミヘン(<天国で泣いてると思うが)だけでなく,ガンズ,ツェッペリンも使われているし,さらにはアンチ・ブッシュのビースティ・ボーイズまでも,エンドレスで大音量で流すといった手法を,米軍はイラクでやっています――時には自軍の士気を高めるためであるといい,時には拘束したイラク人の睡眠を妨害し,心理的圧迫を加えるためであるといいます。(悪用されたBeastie Boysの曲は,"No Sleep 'Til Brooklyn"といいます。ひどいよね。)
これが,アブグレイブなどで行なわれた/行なわれている「大音量の音楽を流す」という「尋問」のテクニックです。
というわけで,この写真を見たときに私がどのくらいぽかーんとしたかは,だいたいご想像いただけたかと思います。
さらにぽかーんとしたのは,シャギー・スクービー兄弟の手なんですが……こんなところでこんなことを説明している自分が可笑しくてならないんですが,これは「知ってなきゃやらない」ポーズ。日本では「メロイックサイン」と呼ばれるもので,メタルの人たちの間で頻繁に用いられるものです。意味は……私が知っている範囲では,ライヴで観客の側から「いぇ~~~~」っていうときにどさっと掲げられるとかそういう感じで,悪い意味ではありません。ま,英語では"devil's hand"とも呼ばれていて(<山羊に似てるから?)そこから意味が派生してしまってもいるようですが。。。(私はメタルの人ではないので説明が間違ってるかもしれません。その場合コメント欄でご指摘ください。)
いずれにせよこれは,「ヘヴィーメタル」という「文化」の一部です。
私がぽかーんとしたのは,正直なところ,「イラク人がまさかこんなメタルな……!」という驚きがあったことは否定できません。バックグラウンドにでかでかと「メタリカ」と書かれているのだからなおさらです。
「イラク人がまさかこんな……」については,私は,ビョークだのコールドプレイだのが頻繁に出てくるSalam Paxのウェブログも2003年3月から読んではいたし,彼のように英米の音楽を聞いてる人がイラクにいることもわかってはいたつもりなんですが,それでもやっぱりぽかーんとしてしまいました。
「メタリカ」については,Enter Sandman(多分一番有名な曲でしょう)が米軍によってああいうふうに使われているけれども,さらにバンドの人が「『文化の違いから攻撃の道具になる』とし、『歌詞は表現手段の一つで、自らの狂気を表現するための自由。イラクの人々が自由の味を知らないなら、これで体験してもらえればうれしい』と司会者……に語った」ということだったけれども,それでも,その音楽が好きだってことは十二分にありうるわけで……というか私自身も,例えばジョニー・ラモーンは頑固一徹共和党支持だったのだけど彼のギターは大好きでということがあるので,なんと言うか,だからもう,この写真を見たときは「うぎゃ」と叫んでぽかーんとしたのです。数分間。
「武器」として用いられる音楽と,その音楽が「音楽として」好きだという人間と,さらに「音楽」を作る人と。
私の頭の中には,メビウスの輪とクラインの壷とウロボロスと……ってな具合にイメージが連鎖しているので何を書いているのかわかりません。
あと医学生のシャギーが「英語がうまい」ってのは,多分アメリカ英語を上手に話したということだと思いますが(概して,アメリカ人はアメリカ英語じゃないと「うまい」とは思わないらしい),これもまた,考え始めると止まりません。映画とかいっぱい見てたんだろうなぁ。。。ドラマ『ER』も英語で全部わかるんだろうなぁ。。。(<医学生だし。)
それから,「飛行機が来る音がしたから走り出した」という部分。日本のニュース番組でも生々しい映像が流された昨年9月12日のバグダード,ハイファ・ストリートを反射的に思い出し,負傷したGhaith Abdul-Ahadの撮影した写真(<流血・死体,ご注意ください)を再度全部見て,ここで死体になった人たちって何歳なんだろう,学生だろうか,会社員だろうか,ということを,改めて考えてしまいました。はっきりわかってるのは,死体のひとつが報道関係者で,彼がそこにいたから動画が撮影されたということだけです。
投稿者:いけだ