イラク人の大多数が望むことから目を背けて
世論調査:「米軍駐留とイラクの将来についてのイラクの世論」(1)および世論調査:「米軍駐留
とイラクの将来についてのイラクの世論」(2)に関係した、アメリカ合衆国人の議論。
イラク人の大多数が望むことから目を背けて
トム・ヘイデン
2006年10月6日
ZNet原文
最近、米国政府の周辺では、イラクを各民族の領土に分割することが騒がしく議論されているが、イラク人のほとんど、そしておそらくはイラク議会の過半数の人々が、アメリカ合衆国に対して軍の撤退の期限をすぐに決めてもらいたがっているという事実は完全に無視されている。イラクの人々の60%が、1年以内の米軍撤退を支持している。61%の人々が、米軍に対する攻撃に賛同すると述べており、これは1月の47%から増加している。
アメリカ合衆国市民はそうした意向を知って当然なのだが、知らないでいる。世論調査の数値を手に入れることはできるが、一般の人々からは隠されている。調査結果の中でもっともすばらしいのは、イラン大統領と外国からのジハードを大多数のイラク人が認めていないこと、そして72%の人々が、5年後にもイラクは一つの国であると考えていることである[2006年9月28日、メリーランド大学の世論調査結果を報じたAP記事を参照]。
毎年毎年殺人兵器を使って、弾圧されている人々からますます嫌われるようになる超大国とは一体何なのだろう? アメリカ合衆国の支配者たちは傲慢さのため、自分たちはものを見ない資格があるのだと思っているようだ。
たとえば、ジョセフ・バイデン上院議員とピーター・ガルブレイス元大使は、イラク分割という自分たちの計画に注目を促している。彼らは、分離主義的内戦がすでに現実のものとなっており、米国は兵士を親米のクルディスタンに再派遣し、また、何部でシーア派が提案する実質上の自治そして西部でのスンニ派の自治を支持すべきだと主張する。
分割にともなう実際的な問題は巨大である。そもそも、米国が支持し、資金と武器を提供するシーア派支配地域は、敵であるスンニ派アラブ人たちと石油収入と政治権力を分け合うことが予測される。第二に、民族浄化を強行することが必要になる[ただし別の名前のもとで]。シーア派の都市バスラには100万人のスンニ派がいて、どこかに移動しなくてはならなくなるだろう。かつて人口600万人の多民族都市だったバグダードでは分断された地帯に人々を立ち退かせなくてはならなくなるだろう。さらに、分断に暴力で抵抗する現在のゲリラに対し、米軍とイラクの協力者たちは、戦争で勝利を収めなくてはならない。
確かに、イラクの人々は、2003年にアメリカ合衆国がイラクを侵略した結果、民族の境界で分断されている。けれども、それは裁判で言えば、自白を強要されたようなものである。イラクの人々は、本当は何を望んでいるのだろうか?
信頼できる調査によると、撤退の時限設定を望むイラク人は、2004年2月の30%から2005年2月には76%、そして今年前半には87%[ニューヨーク・タイムズ紙2006年3月19日]あるいは70%から82%[ナイト・リッダー2006年1月30日・ www.worldpublicopinion.orgにポストされた]に増加している。米軍兵士の駐留を望んでいるのは親西洋のクルド人マイノリティ、少なくともその過半数だけである。
圧倒的な人々のこうした気持ちに対応して、選挙で選ばれたイラクの議員たちの多くが、法律により米軍撤退を強制的に実現しようとしてきた。
2週間ちょっと前の9月12日、104人のイラク国会議員が撤退の時限設定を求めた誓願に署名した。イラクの国会議員は275人おり、80人もが出席しないこともよくある。憲法は、出席し投票する議員の過半数が支持すれば法律を決めることができるという手だてを認めている。したがって、委員会が「再検討」するよう恣意的に命じられることがなければ、撤退提案が突然法律になることもありうる。
2005年7月、少なくとも82人の議員が「占領の早期終了」を求める誓願に署名し、イラク政府が法の規程に従って議会に諮らなかったことを非難した。
今年の議会選挙ではスンニ派の多くが棄権するのではなく投票することを選んだため、当然、占領に反対する議員の数は増えた。私がインタビューしたあるイラク人アナリストによると、撤退時限の設定が議会で提案されれば140人から160人の議員が賛成票を投ずるだろうと言う。そうなれば国連による占領の承認も終わることになるし、おそらく、米軍兵士の撤退も余儀なくされるだろう。それは、安定化プロセスに関わるために必要だと国際社会が待ち望んでいたシグナルになるかも知れない。
我々にはぐうの音も出ないほどの、イラク議員たちのこうした平和を求める抗議を報じたのはどうやらAP通信だけのようである。対照的に、アメリカ合衆国のメディアはイラク政府がいかに「無能」であるかの議論に満ちあふれ、また、終わりなき内戦に対しては分割だけが唯一の道であるといった論調に溢れている。
アメリカ合衆国の政府関係者は、自分たちの「傀儡」政権の議員104人が反抗したことに、どうして言及しないのだろうか? アメリカ合衆国のジャーナリストたちは、そうした動向をどうして報道しないのだろうか? そして、アメリカ合衆国がイラクにいるのはイラクの人々のためなのだというホワイトハウスのプロパガンダにもかかわらず、どうしてかくも多くのイラク人たちが、我々アメリカ人の撤退を望んでいるのだろうか?
その原因は、超大国の押しつけがましい態度に根ざす思慮の欠如にある。そこの人々がどう思っているかにかかわらず、他の国々を分断することは我々アメリカ合衆国の権利であるかのような態度。この状況が改善されなければ、アメリカ合衆国政府は、独り善がりの愚行を支えるために人命と税金と名誉をますます急激に浪費することになるだろう。現実を認識し、イラクの人々は我々の撤退を望んでいるのだと認めるかわりに、アメリカ合衆国政府は、人々と土地を「救う」ために、ますます多くの人々と地域を破壊するだろう。
トム・ヘイデンは元カリフォルニア州議員で、ベトナム反戦運動の指導者。2003年からイラクについても記事を書いている。「The Zapatista Reader」(2001年)をはじめ、ラテンアメリカについても多くの記事を書いている。彼の最新の本は、C・ライト・ミルズの伝記「Radical Nomad」(Paradigm)。
投稿者:益岡