「外国人戦士」の「神話」
主に外交と安全保障(およびそれに関連して経済)についての政策提言などを行なっているシンクタンクで,メンバーにはヘンリー・キッシンジャー元国務長官,ウィリアム・コーエン元国防長官(クリントン政権),ブレジンスキー元国家安全保障補佐官らの名前が並んでいます。
このシンクタンクが出した報告書について,9月23日のガーディアンに記事が出ていました。記事の前半と後半のつながりの悪さがちょっとひっかかるのですが,米当局が繰り返す「外国人武装勢力が」という説明は実は“神話”だという指摘と,その「外国人武装勢力」はどこから来ているのかについてのデータと,それから(例によっての)「シリアが問題である」の記述で構成された記事です。
要約すれば,CSISが「問題である」としていることと,ブッシュ政権が「問題である」としていることとの間にはズレがある,ということになるだろうと思います。
なお,CSISの元のレポートは,サイトを見てみたのですが,まだ掲載されていないようです。そのうちにPDFでアップされるかもしれません。
Report attacks 'myth' of foreign fighters
Brian Whitaker and Ewen MacAskill
Friday September 23, 2005
The Guardian
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1576666,00.html
※概略:
ブッシュ大統領が,イラクから米軍が撤退すればザルカウィやビンラディンが「中東を支配し,アメリカをはじめとする自由諸国に対する攻撃を増加させる」ことを許し,アメリカの敵をつけあがらせることになる,と語っていた(→日本語記事)ときに,米国ワシントンDCに拠点を置くシンクタンク,Centre for Strategic and International Studies (CSIS) (→サイト)が,ある報告書を出した。米国とイラク政府は,イラクにいる外国人戦士の数を実際より多いとし,反乱のバックボーンは外国人戦士であるという「神話を増長させている」とする報告書だ。同報告書によると,推定3万人の反乱勢力のうち,外国人戦士の占める割合は10パーセントに満たないという。
CSISの報告書では,外国人戦士は,「とりわけ彼らが最も強力な爆弾事件において,また大規模で激しい内戦を引き起こそうとしていることにおいて,非常に大きな役割を果たしているがゆえに」【=人数が多いからではなく】,警戒が必要であるとしている。
一方でCSISでは,外国人戦士のほとんどがサウジ出身であるという説明には異議を唱える。CSISによると,外国人戦士の内訳は次のように推定される。
アルジェリア人――20パーセント(最大のグループ)
シリア人――18パーセント
イエメン人――17パーセント
スーダン人――15パーセント
エジプト人――13パーセント
サウジアラビア人――12パーセント
その他の国――5パーセント
なお,英国の情報機関によると,英国人ジハディストはおよそ100名と推定される。
CSISの報告書には,「イラクに入ったサウジ出身民兵の大多数は,戦争前にはテロリストのシンパではなかったが,急進化した。その理由は,ほぼ100パーセント,連合軍の侵略である」とある。
サウジ出身者の平均年齢は17~25歳で,概してミドルクラスで職もあり,保守的な有力部族とつながりを持っていることが通常である。「サウジ出身民兵の大方が,アラブの地が非アラブの国によって占領されていると考えるだけで虫酸が走るという動機で動いている。こういった感情は,彼らがテレビやネットで見る占領の映像によって強化される。……[尋問において]最もよく口にされるのはアブ・グレイブであるが,グアンタナモ湾の映像もまたこの病理(pathology)を増大させている。」
同報告書では,イラクへの戦士の流入という点ではシリアが最大の問題であるとしているが,シリアとイラクとの国境は380マイルにも及び,民兵の流入を阻止することは極めて困難である,としている。「仮にシリアが国境を完全に強制的に封鎖する政治的意思を持っているとしても,それを行なうために十分なリソースは,シリアにはない。」
一方で産油国のサウジアラビアは,この2年間というもの,12億ドルという巨費と3万5千もの兵員を投じ,国境警備を入念に行なってきた。この半年の間でイラクに入ろうとして拘束されたサウジアラビア人は63人である。一方でイラクからサウジに密入国や密輸を企て拘束されたのは683人。イラクからサウジや近隣諸国のイスラミスト集団に向けられた爆発物などが密かに運ばれている。
「イラクの実情」についてのこういったレポートが,バグダードではなくワシントンで書かれているということ自体に意味があるように思えます。(バグダードでも書かれていて,それを私は知らないというだけなのかもしれませんが。)
さらに,それが英語という言語であるがゆえに,世界中に伝えられるということにも。
ジャン=リュック・ゴダールの新作映画『アワーミュージック(原題:Notre Musique)』が10月から公開されますが,その公式サイト内の,ゴダールのインタビューから:
アメリカにわざわざ言及する必要はないんです。彼らはつねにそこにいるからです。アメリカは映画のプロコンシュル(ローマ時代の「属州総督」)として機能しています。古代に、ガリアやゲルマン民族を、カエサルが派遣した属州総督が統治していたように。今日では、世界で製作されるすべての映画はカエサルの影のもとにある。
このゴダールの発言を,「映画」というコンテクストから取り出してみるのはルール違反かもしれませんが,「彼らはつねにそこにいる」というゴダールのことばを読んだときに思い浮かぶのは,映画だけじゃない,いろいろなことです――「政治」さえも?
投稿者:いけだ