イタリアの情報機関員が死亡したバグダードのエアポート・ロードでの米軍の発砲(
当ウェブログ過去記事)に続き,南部でブルガリア軍兵士がパトロール中に米軍に撃たれて死亡(
Reuters記事|
asahi.com記事によるとブルガリア国軍のウェブサイトへの匿名の書き込みで発覚),と,味方への発砲が続いて報じられていますが,英国でもfriendly fire(友軍への誤爆)について警察の捜査が始まりました――2年前の出来事についての捜査です。
2003年3月の開戦直後,米軍が英軍に対して爆撃してしまうという出来事は立て続けにありました(一例として
当時の記事←これについてはデイリーミラーがShocking and Awful<Shock and Aweのもじりという見出しを立てていたことを鮮明に覚えています)。
今回警察の捜査が開始されるのは,米軍から英軍への誤爆ではなく,英軍内部の誤爆についてです――2003年3月,開戦からわずか3日後ににバスラ近くのアル=ズバイルで死亡したスティーヴン・ロバーツ軍曹(当時33歳)の件。
改めて,“とりあえず”のニュースソースであるBBCで検索してみると:
・ロバーツ軍曹は2003年のイラク侵略における英軍初の死者である。
・最初に名前が伝えられたときの記事では「友軍への誤爆」で死亡したとは書いていない。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/2883583.stmTuesday, 25 March, 2003
He was shot on Sunday while trying to calm rioting civilians near al-Zubayr.
・葬儀を報じる記事にも「友軍への誤爆」で死亡したとは書いていない。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/cornwall/2974761.stmFriday, 25 April, 2003
The 33-year-old Desert Rats tank commander was shot through the chest during a riot in Al Zubayr, near Basra, just three days after the conflict began.
・死亡から8ヵ月後,「ボディアーマーを着けていなかった」ことについてロバーツ夫人が国防省に説明を求める。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/3233942.stmTuesday, 25 November, 2003
Sergeant Steve Roberts, a 33 year-old tank commander, was shot by an Iraqi attacker in Al Zubayr, just three days into the war.
But Samantha soon learned a shortage of vital equipment may have contributed to her husband's death. It turned out he was without body armour.
Although he was apparently issued with a flak jacket, he was then asked to give it up because other soldiers in infantry units had a greater need.
・12月,ロバーツ軍曹がボディーアーマーを着けていれば死んでいなかったのではとの国防省報告書。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/3332085.stmThursday, 18 December, 2003
・装備の不足について,フーン国防大臣への明確な批判が出る。→数日後,フーン国防大臣は公的な謝罪は拒否(
記事)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/cornwall/3334275.stmFriday, 19 December, 2003
・またこの記事には「友軍誤爆」の可能性が否定できないとの記述が。
There has also been doubt placed on whether Sergeant Roberts was actually killed by Iraqi dissidents or friendly fire.
A senior officer from the 2nd Royal Tank Regiment wrote to his family saying another commander had fired to help Sergeant Roberts.
The letter said the Iraqi was killed but "tragically Steve was also hit".
・2004年1月,サンデーミラーが「友軍誤爆ではないのか」と報道。パブリック・インクワイアリーが発足。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/cornwall/3366917.stmSunday, 4 January, 2004
A story in the Sunday Mirror backs the claims made by Sergeant Roberts' widow Sam, from Shipley in West Yorkshire, and mother Marion Chapman that he was killed by two machine gun bullets from his own side.
・夫人が「夫は装備が不足しているとテープに録音していました」と語る。(テープは葬儀のときに夫人の手に渡った。)
http://news.bbc.co.uk/1/hi/england/3398525.stmThursday, 15 January, 2004
・このBBC記事には「イラク人によって射殺された」と断定の記述。
He was shot dead by Iraqis as he tried to control a riot in Basra on 24 March.
このあとBBCには,2004年3月の
死亡から1年の記事があり(ここでもduring an attack by Iraqi dissidents outside Basraとの記述),11月には
夫人が戦没者記念日のイベントに参加の報道があり,そしていきなり2005年3月7日に,「警察による捜査開始」の記事。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/4326313.stmMonday, 7 March, 2005
The death of a UK tank commander in Iraq, killed by "friendly fire" after having to give up his body armour, is being investigated by police.
Sgt Steven Roberts, 33, of Shipley, West Yorkshire, died in Basra in March 2003 when a colleague shot dead an Iraqi civilian and hit him.
Scotland Yard said Attorney General Lord Goldsmith had ordered an investigation into both deaths.
ボディーアーマーを他人に譲った後で「友軍誤爆」で死亡した英軍戦車指揮官の死について,警察による捜査が行なわれつつある。
ウェスト・ヨークシャーのシプリー在住だったスティーヴン・ロバーツ軍曹(当時33歳)は,2003年3月に同僚がイラクの民間人を射殺した際に自身も被弾し,バスラで死亡した。
スコットランドヤードによると,ゴールドスミス司法長官が2件の死についての捜査を命令した。
……BBCだけ見てると話がさっぱり見えてこないのですが……ボディーアーマーがあれば死ななかったとしてフーン国防大臣が批判されていた記事は,その当時よく読んでいました。しかし「友軍誤爆」はどこから?
という点がガーディアンに。2005年2月8日。
MoD admits liability for death
Richard Norton-Taylor
Tuesday February 8, 2005
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1407895,00.html
英国防省は,イラクで英軍初の戦死者となったスティーヴン・ロバーツ軍曹の死についての法的責任を認める(will accept),と,軍曹の夫人の弁護士が昨日述べた。
今回の動きで,イラクで事故の結果として死亡したほかの兵士の家族にとっても道が開けるかもしれない。
the 2nd Royal Tank Regiment所属のロバーツ軍曹(当時33歳)は,2003年3月24日,石を持って襲い掛かってきたイラク人を払いのけようとしているときに死亡した。
バスラ近くのズバイルではデモンストレーションが行なわれており,その時にはすでに終わりつつあるようだったが,別の兵士がピストルを抜いてイラク人に向けて発砲した。その弾が誤ってロバーツ軍曹に当たった。国防省の内部報告書では,軍曹のフラックジャケットにセラミックのプレートが入っていれば死ななかったかもしれないとしている。軍曹はプレートを支給されていたが,部隊全員に行き渡るには数が不足していたため,軍曹は別の兵士に自分のプレートを譲っていた。
この銃撃については現在ロンドン市警が捜査中であり,陸軍将校1人と兵士4人が刑事裁判にかけられる可能性がある。
ロバーツ軍曹の夫人サマンサさんの弁護士をつとめるジェラルディン・マックールさんは昨日,この件についての法的責任を国防省は認めることを決定したと述べた。同弁護士によると,当初国防省はロバーツ軍曹の死は戦闘中に兵士が死亡した場合の「戦闘免責(combat immunity)」にカバーされると主張していた。
「しかしイラクでは,いかに戦時とはいえ,避けることができたことがたくさん起きていました」と同弁護士は述べた。
同弁護士はイラクで任務に着いた兵士たちの20家族の代理人を務めており,国防省はロバーツ軍曹以外の件も見直すことになるかもしれないと述べた。
話を整理すると,
・2003年3月24日,バスラ近郊でデモがあり,英軍が鎮圧しようとした。
・その際,本来身に着けているはずだったボディーアーマーを他人に譲ってしまっていたロバーツ軍曹が,英軍兵士の弾に当たって,死亡した。
……ここまでは英軍内部の問題ですが,
・このとき,ロバーツ軍曹だけでなく,イラクの民間人(civillian)も1人死亡した。
March 06, 2005の
サンデー・タイムズの記事によると:
Roberts, 33, from Shipley, Yorkshire, was serving as a tank commander with the 2nd Royal Tank Regiment, near Basra when he was shot in the stomach and chest in March 2003. At the time he was trying to fend off an Iraqi who had attacked him during a riot.
Detectives have been told that although the riot seemed to be dying down, another soldier is said to have pulled out a pistol and fired at the Iraqi.
The Iraqi was killed but a stray shot apparently hit Roberts by mistake. The soldier is alleged to have ignored the army’s rules of engagement.
※太字にした語句は同一人物を指します(英語の書き方の原則に基づいた判断)。
つまり,軍曹に襲い掛かった(ガーディアン記事には「石を持って」とある)イラク人に対して,英軍兵士が発砲した。そしてそのイラク人は死亡した。同時に流れ弾が軍曹に当たった。発砲した兵士は軍規を無視していたことになる,と。
当初報じられていたのは「英兵死亡」であり,「イラクの民間人も死亡」は,BBC(2003年開戦直後は明らかに「戦争支持」だった――英メディアはほとんどそうでしたが)の記事には,書かれていないようです。(私の見落としの可能性もあります。)
こういった話が,イラク全土で一体いくつあることやら。
なお,ガーディアンがdemonstrationと書いているものを,タイムズがriotと書いているのも,ちょっと興味深いことです。
上記以外の関連記事:
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2-1474761,00.htmlFebruary 08, 2005
http://news.scotsman.com/latest.cfm?id=4100533Mon 7 Feb 2005
Google Newsで"steven roberts"を検索ところで
デモ隊への発砲であるということになれば――軍曹に襲い掛かったイラク人の“武器”が「石」ならばなおさら――法的にはどうなのでしょうか?
そのうちに「向こうから撃ってきたので反撃した」という話に?(←ブラックジョークではなく。)
1972年1月30日のデリー(ロンドンデリー)でも,当時は
being shot at first by two snipers in flats overlooking the street. It claims acid bombs were also thrown.
と主張されていました。(
source)
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この記事は英国のニュースなので,自分の
個人ウェブログにポストしようと思って書いたのですが,よくよく考えるとイラクのこと(公式の「戦争」中に,デモ参加者が軍の発砲によって死亡している)なので,こちらのウェブログにポストすることにしました。元々個人ウェブログを想定して書いたので,最後とか特に英国の話になってますがご容赦ください。
投稿者:いけだ
※追記:
英軍関連では,
【国防省に対して、怒りに満ちて訴える湾岸帰還兵たち。】BBC News(2004/11/30)(@反戦翻訳団さん,2005年03月06日)もご参照のほど。
2005-03-08 22:31:03