白燐とはどういうものか、何のために使われたのか、「化学兵器」なのか
画像は、イタリアのRAIニュースのフィルムから作成されたGIFアニメです。先週、とある英語のフォーラムに掲載されていたもの。誰が作ったのかはわかりません。特にクレジットがついていなかったので、お持ち帰り・転載はOKと私は判断しました。(ここからのお持ち帰りなどももちろんご自由にどうぞ。ただし画像への直リンクはご遠慮いただきたく。。。)
このGIFアニメについては、例えば「文字情報は作った人の主義主張、映像そのものは現実、構成は作った人の主義主張」というように見ることができると思います。
画像は粗いけれども、着弾しているのが人工の建造物が密集しているエリアであることは、「照明」の効果によって、はっきりわかります。:-p (着弾の瞬間の静止画像は、RAIニュースのページ(キャプチャ画像)で見ることができます。)
▼以下、太字は追記分(追記せず新記事にしてある情報もあるんですが、追記しておきます)
また、USINFO.State.Gov(米国務省)によると、白燐弾は「照明用として用いた」そうですが、2004年4月の『ノース・カウンティ・タイムズ』の記事では、「朝食を中断して」WPを撃ち込んでいたことが書かれています。朝食の時間帯に照明弾が必要なんでしょうか、イラクでは。:-p(緯度が高くてなかなか夜が明けないような場所ならともかく。)
つまり、これだけでも、国務省の説明は、現場とはまったく関係のない、会議室内の「お話」であると考えられるんじゃないかと私は思います。
追記:ここまで▲を書いたあとで、米軍のスポークスマンが「照明弾という説明は不十分な情報に基づいたものだった」として「白燐弾の対人使用」を認めました。詳細はこちらで。
一方、米軍の説明(「隔月刊 野戦砲兵隊」みたいな、米軍の出してる雑誌)では国務省とは違って:
われわれは白燐を、……煙幕を張る任務で使用し、また、後の戦闘では、塹壕線や偽装蛸壺に潜んでいる反乱勢力に対し、HE(high explosives:高性能爆弾)では効果が見られない場合に、効果的な心理兵器として使用した。
と、作戦に当たった米軍将校が説明しています。
この「効果的な心理兵器(potent psychological weapon)」とは何ぞや?という疑問も私にはあるのですが。。。phychological weaponってのは「比喩的に“武器”」という場合に用いられる表現で「それを言ったら相手は何も言えなくなる」ようなもののこと。(例えば冷戦期のソ連がアメリカに対して「うちの方が先に宇宙に行ったんだもんね」と言う、プーチンがブレアに対して「おたくはわが国がテロリストとして手配している人物の亡命を受け入れた」と言う、など。「涙は女の武器」なんてのもそうでしょうね。)
米軍がphychological weaponと言う場合はどうやらそれとは少し違っていて、2003年3月の開戦時にバグダードに爆弾を雨あられと注いだあれが「衝撃と畏怖(Shock and Awe)」と名づけられたように、ガツンと一発食らわせて相手のやる気をなくさせるphychological weaponと言うらしいです。
さて、RAIの報道以降のネット上での議論(いくつかのフォーラムやブログを見ただけですが)は、
1)米軍がWPを使っているのは事実である というのが前提で、
2)RAIはこれを「化学兵器」だといっているが、WPは「化学兵器」なのかどうか が議論の対象となっている
という感じです。
残念なことに、私の場合、この件については「英語」と「化学」というハードル2つがあり、またネット上での英語圏でのスピードがあまりに速すぎてついていけてなかったってのが正直なところですが、印象としては、「化学兵器かそうでないか」という議論は、「虐待であって拷問ではない」というアブ・グレイブ刑務所での出来事の件(もっとさかのぼれば、「残忍ではあるが拷問ではない」という、北アイルランドでの「5つの尋問テクニック」についての欧州人権委員会と欧州人権法廷での判断というのもありますが)を連想します。
また「化学兵器」ですぐに連想されるのはいわゆる毒ガスですが(マスタード・ガス、サリンなど)、WPについてはこういう短い記述がありました。
When WP or P4 is combined with Oxygen, smoke is given off in the form of P2O5 phosphorus pentoxide, actually twice that P4O10.
This is nasty stuff and is lethal.
白燐が酸素と結合すると(つまり「燃焼すると」ってことですよね)、酸化リン(五酸化二リンP2O5→分子が2つで十酸化四リンP4O10:どちらもPとOはアルファベット)の形で煙が発生する。これが致死性である。(日本語にする際、用語類はウィキペディアで確認しました。)
追記:P4O10について
P4O10については、英文の情報の多くが下記2件の情報に依拠しているようです。
まず、
http://ptcl.chem.ox.ac.uk/MSDS/PH/phosphorus_pentoxide.html
を参照したところ、
Stable, but reacts violently with water, alcohols, metals, sodium, potassium, ammonia, oxidizing agents, HF, peroxides, magnesium, strong bases.
→安定した物質であるが、水、アルコール、金属、ナトリウム、カリウム、アンモジア、酸化剤、HF(? hafnium?)、過酸化物(過酸化水素)、マグネシウム、強塩基と激しく反応する
次に、
http://www.sciencelab.com/msds.php?msdsId=9924773
を参照したところ、
Potential Acute Health Effects:
Extremely hazardous in case of skin contact (irritant), of eye contact (irritant). Very hazardous in case of ingestion, of inhalation (lung irritant). Hazardous in case of skin contact (corrosive). The amount of tissue damage depends on length of contact. Eye contact can result in corneal damage or blindness. Skin contact can produce inflammation and blistering. Severe over-exposure can produce lung damage, choking, unconsciousness or death. Inflammation of the eye is characterized by redness, watering, and itching. Skin inflammation is characterized by itching, scaling, reddening, or, occasionally, blistering.
→皮膚に触れると極度に有害(刺激性)、目に触れても極度に有害(刺激性)。
摂取した場合は非常に有害、吸い込んだ場合も非常に有害(肺に刺激性)。
皮膚に触れると有害(腐食性)。
組織のダメージの量は、接触している長さに応じる。
目に触れると角膜損傷もしくは失明に至る場合がある。
皮膚に触れると炎症・水疱を生じさせる場合がある。
ひどく過度にさらされると(<直訳:severe over-exposure)肺のダメージ、呼吸困難、意識喪失もしくは死を生じさせる場合がある。
目の炎症は充血、なみだ目、ちくちくした痛み(かゆみ)に特徴がある。
皮膚の炎症はちくちくした痛み(かゆみ)、皮むけ、あるいは時として水疱に特徴がある。
また、コメント欄で「冶金系」さんにご教示いただいたソースとして:
http://www.nihs.go.jp/ICSC/icssj-c/icss0545c.html (←P4O10について必見ページのひとつ)
# 「冶金系」さん、ありがとうございました!
そして、化学兵器を禁止している条約では、化学兵器としての目的(人や動物の殺傷)外で同じ物質が用いられる場合というのは除外されているのですが、それにしても「化学兵器の作用を持たないくらいの量での使用」という条件があり、仮に米国/米軍が説明しているように「照明」とか「煙幕」といった用途が目的であったとしても、それだけでは「化学兵器としての作用を持たないくらいの量」かどうかはわからないわけですから、「照明用」とか「煙幕用」と言ってみたところで、それだけで「化学兵器ではない」と言い切ることは無理です。
これら、「化学兵器かどうか」という点については、DailyKosの11月10日記事、CONFIRMED: WP is a CW if used to cause harm through toxic propertiesに詳しく検討されています。
……とまとめたところでガーディアンを見てみたら、ジョージ・モンビオットの記事が出ていました。
The US used chemical weapons in Iraq - and then lied about it
Tuesday November 15, 2005
原文:http://www.guardian.co.uk/comment/story/0,3604,1642575,00.html
【概要】
米軍はファルージャで化学兵器を使用したのか? その答えは「イエス」だ。その証拠は先週イタリアのテレビ局で放映されたドキュメンタリーの中にはない。あれじゃダメだ。白燐弾がイラク人に向けて撃たれたというには弱いし、あれは状況証拠だ。ブログ界隈では動かぬ証拠だと大騒ぎになっていたが。
ブロガーたちによって最初に発見されたのは米軍が発行している雑誌だった。「Field Artillery(野戦砲兵隊)」の2005年3月号で、第二砲兵隊の将校たちが、昨年11月のファルージャ攻撃について得意げに「WPは効果的で多用途だ。白燐は煙幕として使用し、またその後に、塹壕線や偽装蛸壺に潜んでいる反乱勢力に対し、HE(high explosives:高性能爆弾)では効果が見られない場合に、効果的な心理兵器として使用した。われわれは『シェイク・アンド・ベイク』ミッションを行い、反乱勢力が潜んでいる場所から出てこさせるためにWPを使った」(→この記述は別記事参照)と語っている。
その次は、カリフォルニア州のノース・カウンティ・タイムズの記事。2004年4月のファルージャ攻撃のときに海兵隊にエンベッドしていた記者の書いたものだ。「数秒で準備が完了すると、近くにある弾薬の缶から白燐砲弾をつかみ、ミリキンが『砲身を上げろ』と叫んだ。ミリキンが砲弾を落とすと、ボガート伍長が『発射!』と叫んだ。連続して何発も発射され、衝撃でピットの周りに砂埃が立つ。彼らは発火した白燐と高性能爆薬の混合したものを『シェイク&ベイク』と呼んでいる。それが一群の建物の中に送られる。反乱勢力がそこにこもっていることが突き止められていたのだ」。(→この記述は別記事参照)
白燐は化学兵器禁止条約(CWC)の一覧には載っていない。戦場を照らすためや、敵から兵士たちの動きを隠すための煙幕を発生させるためなら合法的に使用することができる。〈略〉しかしそれは、人間に対して直接使用されれば即座に化学兵器となる。〈略〉
白燐は脂溶性で、空気に触れると同時に燃焼する。globalsecurity.orgを引用すると、「熱傷は通常多発的で深く、大きさはさまざまである。目に固体が入ると重傷となる。分子は大気中の酸素がなくならない限りは燃焼し続ける。……白燐の破片が当たれば、骨に達するまでの熱傷となる可能性がある」。
酸化の過程において白燐は煙を発するが、この煙は五酸化リンから成る。米国の工業安全基準によると、その煙は「湿気に触れると熱を発し、粘膜の表面を焼く……煙に触れると、目は重度の熱傷となり、永続的な損傷を受ける可能性がある」。
先週まで、米国務省は、米軍は白燐弾を「ファルージャでは非常に慎重に、照明の目的で、用いていました」と主張していた。「夜間、敵の人員ではなく、敵の居場所を照らしだすために」発射された、と。
新たな証拠を突きつけられ、火曜日に国務省はポジションを変えた。【訳注:国務省のサイトにある文書、Did the U.S. Use "Illegal" Weapons in Fallujah?は、Created: 09 Dec 2004 Updated: 10 Nov 2005となっている。その前は、Updated: 27 Jan 2005だった。】
「われわれに提供されていた情報のいくらかが……正しいものではなかったということが判明しました。白燐弾は煙を出しますが、ファルージャでは照明のためではなく、煙幕のために用いられていました。これはField Artillery magazineの記事でわかったことです。同記事には『塹壕線や偽装蛸壺に潜んでいる反乱勢力に対し、HE(high explosives:高性能爆弾)では効果が見られない場合に、効果的な心理兵器として使用した』とあります。記事によれば、米軍は白燐弾を、敵の戦闘員をいぶり出すために用い、それから高性能爆弾で殺しました」。
換言すれば、米国政府は、ファルージャで白燐が化学兵器として使用されたということを認めているようだ。
侵略者(invaders)が撤回を余儀なくされたことは初めてではない。ナパームの使用についても同様のことがあった。2004年12月、英国労働党所属下院議員のアリス・マーン(Alice Mahon)が、英国防省のアダム・イングラム閣外相に対し「ナパームもしくは類似の物質が、イラクにおいて、連合軍によって、(a)戦争中 また (b)戦争後に使われたかどうか」をたずねた。閣外相は「戦争中もその後も、イラクにおいて連合軍部隊によって、ナパームは一切使用されていない」と答えた。
注視してきた人々はおかしいと思った。2003年3月、バグダードへの進撃の途上で、に米海兵隊が焼夷弾をチグリス川の橋やサダム運河に投下したという報道は広くあったのだ。海兵隊の司令官は、「いずれでもナパームを使った」と認めていた。エンベッドのジャーナリストたちは、クウェート国境のサフワン・ヒルにナパームが投下されたと伝えていた。2003年8月、ペンタゴンは、海兵隊は「マーク77爆弾」を投下したことは事実であると認めた。
これらが含んでいた物質はナパームではなかったが、その機能は「非常に類似している」とペンタゴンの情報シートに書かれている。ナパームは石油とポリスチレンから作るが、マーク77のジェルはケロセンとポリスチレンから作られる。投下される身になってみれば、それでいかほどの違いがあるんだろうか。
今年1月に、ハリー・コーエン下院議員がマーン議員の質問を繰り返した。コーエン議員は「マーク77爆弾が連合軍によって使用されていたのかどうか」を問いただした。イングラム閣外相は、米国は「私たちに対し、マーク77爆弾は、イラクにおいていかなるときにも使っていないと断言した。マーク77は本質的にナパーム弾筒であるが」と答えた。
米国政府はイングラム閣外相に嘘をついていた。閣外相は6月になって議員への私的な書簡で、彼の陳述を撤回しなければならなかった。
イラクとの戦争は2つの理由で必要である、と私たちは言われた。サダム・フセインは生物・化学兵器を所持しており、いつかそれらをほかの国に対して使うかもしれない、という理由が1つ。そして、自国民に対して化学兵器を使うなど、いろいろな犯罪を犯してきたサダムの圧制からイラクの人々は解放されなければならない、というのが1つ。トニー・ブレア、コリン・パウエル、ウィリアム・ショークロス(→プロフィール)、デイヴィッド・アーノロヴィッチ(→ガーディアンとかに書いてる評論家、ウィキペディア)、ニック・コーエン(→ガーディアンとかに書いてる評論家、プロフ)、アン・クルイド(→労働党議員で元反戦・現戦争支持、ウィキペディア)ら多くの人々が、サダムが1988年にハラブジャでクルド人に毒ガスを使ったことを根拠として、自説を論じた。彼らはこの戦争に反対する人々を、イラク人の身になって考えていないとして非難した。
それほどまでにイラク人のことを考えているというのなら、これらタカ派の連中の誰一人として、連合軍による非通常兵器(unconventional weapons)の使用に反対の声を上げていないのはなぜだろう。
彼らの中でこのことについて関心を示しているのは、アン・クルイドだけだ。今年5月、彼女はガーディアンに投稿している。「現代版のナパームが米軍によって使用されている」という報道は、「まったく根拠のない話です。連合軍はナパームは使用していません。ファルージャでの作戦においても、そのほかの場合においても」と。
彼女はどうしてそれを知ったのか。外務省の閣外相が告げたからだ。侵略前に、クルイドはイラクをまわり、イラク国民に対するサダムの犯罪を調査した。そして英下院に対し、そこで発見したものには涙が出た、と語った。
侵略後、彼女は閣外相のことばを額面どおりに受け取った。ネットで30秒も調べれば、まったく根拠のないはったりだということがわかったのに。クルイドはイラクの人々のためにと言ってきたのだが、実際どこまで本気なのだか。
大量殺人、拷問、不法監禁、化学兵器の使用で起訴されているサダムは、死刑判決を言い渡されるかもしれない。確かにサダムはこれらすべての罪状について有罪だ。
サダムを政権の座から追った者たちもそうだろう。
Monbiot.com
投稿者:いけだ