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2006/08/15

ブッシュのイラクがサダムのイラクよりひどいわけ

 
『アメリカの国家犯罪全書』の著者で元米国国務省職員だったウィリアム・ブルムが、サダム支配下のイラクと米軍占領下のイラクを比較する。

 「一つ教えてくれ。サダム・フセインが失脚してうれしいか?」
  私は「いや」と答える。

ブッシュのイラクがサダムのイラクよりひどいわけ
ウィリアム・ブルム
2006年6月21日
CoutnerPunch原文

米ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の海外特派員でNPRのバクダード事務所に詰めているローレン・ジェンキンズは、今月(2006年6月)上旬、シーア派の高位聖職者と会談した。この聖職者はNPRが「穏健派」と述べる人物で、シーア派信者たちを平和と和解に導こうと努めている人物でもある。彼はサダム・フセインに投獄されたことがあり、亡命生活を余儀なくされていた。ジェンキンズは彼に次のように聞いた。「サダム・フセイン時代に戻らなくてはならないとすると、どう感じますか?」 これに対し、この聖職者は、「今のイラクよりはサダム・フセイン支配下のイラクのほうがまだましだ」と答えた。

2003年以来のアメリカ合衆国による爆撃と侵略、体制変更と占領の結果イラクの人々が経験したことを考えるならば、この人物からさえ、そうした見解が表明されることは驚くべきことだろうか? 私は、イラク人の祖国をアメリカ合衆国が「解放」したために、イラクの人々の頭の上に降りかかることとなった多くの不幸についてリストを作る気になった。そのリストは気の滅入るもので、読者の方々はすべてを読みたいとは思わないかも知れないが、一カ所にまとめて要約しておくことは大切だと思う。

教育システムの機能が失われたこと。2005年に国連が行った調査では、高等教育機関の84%が「破壊されたか、ダメージを受けたか、略奪をうけたか」している。

イラクの知的蓄積は、何千人もの大学関係者やそのほかの専門家が国外に脱出したか、イラクで謎のように誘拐されたり暗殺されたりしたことで、さらに弱体化した。また、そのほかに、数十万人、もしかすると100万人近い教育を受けた中流階級の活発な人々が、ヨルダンやシリア、エジプトに逃れた。多くが、殺害脅迫を受けたあとで国外に逃れたのである。

「今や、私は一人きりです」と、ある中流階級のスンニ派アラブ人は言う。彼も、国外に出る決心を固めた。「政府はありません。政府からは何の保護も受けられません。誰でも家にきて、私を捕まえ、殺してゴミ捨て場に投げ込むことができます」[1]。

機能していた医療体制が失われたこと。人々の健康が失われたこと。腸チフスや結核のような致命的な伝染病がイラク全土に広まっている。イラクの病院と保健センター・ネットワークは、かつては中東で賞賛の対象だったが、今や、戦争と略奪により大きな損害を受けている。国連の世界食料計画(WFP)は、イラクの子どもたちのうち40万人が「危険なまでにタンパク質が不足して」苦しんでいると報じている。栄養失調や予防可能な病気----これらは12年にわたり米国が課した経済制裁のために以前から問題だったが----が、とりわけ子どもたちの間で増えている。貧困と混乱により、きちんとした食生活や医療を手に入れることがさらにいっそう難しくなったためである。

手足を失ったイラク人は何千人もいる。米軍が落としたクラスター爆弾の不発弾が地雷となって、それにより手足を失った人も多い。様々な人権団体が、クラスター爆弾を、民間人とりわけ子どもたちに対して無差別に被害をもたらす残酷な兵器であると非難している。

米軍の大砲から発射されて爆発する劣化ウランの粒子はイラクの空中を漂い、人体に吸い込まれて永遠に内部被曝を続ける。また、水や土地、血液、遺伝子を汚染し、体に異常を抱えた子どもたちを作る。2003年春、戦闘時の数週間に、劣化ウランを含む弾頭を搭載したA10「戦車破壊」機は、30万発以上を発射した。

そしてまた、ナパームの使用。白燐兵器の使用。

米軍は、病院も攻撃した。米軍が公式発表する犠牲者数と矛盾する米軍攻撃の犠牲者数を病院が発表しないようにするためである。それまで、病院は犠牲者数を発表する習慣だった。

数多くの家が米軍に押し入られ、男性たちは連れ去られ、女性たちは侮辱され、子どもたちはトラウマを抱えることとなった。多くのこうした家族は、米軍兵士たちが家族の金を盗んでいくと述べている。イラクは、裸にして調べられるという屈辱的な扱いを受けている。

イラクの古代遺産----人類の過去に関する世界に残る最大のアーカイブかも知れない----も、破壊され略奪されているが、石油施設を防衛するのに忙しい米軍は、遺産の保護など行わない。

ほとんど無法の社会。イラクの法体制は、政治的領域を除くと、以前は中東で最もめざましい、世俗的なものだった。それが今や大混乱状態にあり、宗教法がますます広まっている。

かつて広まっていた女性の権利は、今や様々な領域で様々に適用される過酷なイスラム法のもとで巨大な危機に晒されており、その危機は高まっている。今日では、イラクのシーア派宗教支配層の中には、腕を露出したり男友達とピクニックに行ったりという理由で女性に身体的攻撃を加えることを容認するような人々もいる。

短パンで表に出る男性も嫌がらせを受けることがあり、短パンをはいて外で遊ぶ子どもたちも同様である。

セックス目的の人身売買は、以前はほぼまったく存在しなかったが、今や重大な問題となっている。

ユダヤ教徒、キリスト教徒をはじめとするムスリム以外の人々は、サダムの世俗政権下で享受していた安全のほとんどを失い、多くの人が移住した。

米軍やイラク新政府が運営する強制収容監獄の中では、様々な拷問と虐待が行われている----身体的なもの、心理的なもの、感情的なもの、苦痛や屈辱、侮辱を与え、精神を崩壊させたり、死や自殺に至らしめたりといった拷問と虐待で、人権の破滅地帯となっている。

5万人以上のイラク人が米軍侵略以来、米軍によって投獄されたが、そのうち何らかの犯罪で有罪とされたのは、ほんのごくわずかである。

米軍当局は、サダム・フセイン政権下で人々に恐れられていた治安サービスの要員たちを雇い入れて情報収集活動を拡大し、レジスタンスを根絶しようとした。

失業率は約50%と推定されている。

アメリカ合衆国占領当局は、当初、バアス党政府職員や兵士の大量解雇を実行した。のちに、必死に仕事を求める多くの人々が、占領と関係がある汚れた職に就き、誘拐されたり殺されたりといった大きな危険に身を晒さざるを得なくなった。

生活費は急上昇し、収入は急落した。

イラク北部のクルド人たちは、アラブ人を追放した。アラブ人たちは、イラクのそれ以外の地域でクルド人たちを追放した。

多くの人が、バアス党員であるという理由で、自宅から追放された。米軍兵士たちがこうした追放に参加したこともある。

米軍兵士たちは、仲間の一人が殺されたという理由で激怒し、家を破壊するといったこともある。

米軍兵士たちは、探している人物を見つけられないときに、そこにいる人間を誰彼かまわず連れ去ることがある。夫が出頭するまで妻が拘束されたりする。これは、ハリウッド映画によりナチスのとりわけ悪辣な高位としてアメリカ合衆国人の心に刻み込まれていた行為だったはずであり、また、民間人に対する集団的懲罰として、ジュネーブ条約で禁止されている行為である。

住宅地に爆撃攻撃が続けられることで、数え切れないほどの家や仕事場やモスクや橋や道路や、現代の文明生活に必要なあらゆるものが破壊された。

ハディーサ、ファルージャ、サマラ、ラマディ・・・・・・米軍が無差別破壊と殺人、人類と人権に対する攻撃を行った場所として、汚名を帯びて伝えられる地名である。

安全な飲み水、効果的な汚水排水機能、安定的な電力供給などは、すべて、全体として侵略前よりもひどい状態にあり、摂氏45度にもなる気温の中で、人々に継続的な困難を強いている。この悲惨な状況に追い打ちを欠けるように、人々はガソリンを買うために熱気の中で一日中待たなくてはならない。その理由の一つは、イラクの主要収入源である石油の生産が、侵略前の半分以下になっていることにある。

1991年、湾岸戦争の際、米軍は、上下水道システムをはじめとするイラクのインフラを意図的に破壊した。2003年までに、イラクの人々は、破壊されたインフラの主要部分を相当までに修復していた。アメリカ合衆国政府が新たな爆撃をイラクに加えたのは、そのときである。

内戦、「死の部隊」、拉致、自動車爆弾、強姦が毎日毎日起きる。・・・・・・イラクは地上で最も危険な場所になった。米軍兵士と私営治安企業は何度も人々を殺しては、遺体を路上に遺棄しておく。米軍が訓練したイラク軍と警察部隊は、さらに多くの人を殺し、ゲリラも多くの人を殺す。暴力とセクト的基準を持った新たな世代がまるごと育ちつつある。これは、将来永年にわたり、イラク人の心理状態を毒することになるだろう。

米国諜報部と軍事警察は、しばしば、ゲリラをスパイするという条件で、危険な犯罪者を釈放する。

様々な理由で抗議を行う人々が、米軍兵士に撃たれたことも何度かある。

何度も、米軍は、アルジャジーラ・テレビの記者を殺し、怪我を負わせ、投獄し、アルジャジーラの事務所を閉鎖し、いくつかの地域から閉め出した。占領当局が、アルジャジーラの報道を気に入らなかったためである。

新聞も、記事にした内容を理由に、閉鎖させられた。

ペンタゴンは、イラクのメディアに金を払ってプロパガンダ目的の記事を報道させている。

それでも、実際、自由がイラクを席巻している----巨大多国籍企業は、公益を守る法律や環境規制、労働者保護規制に邪魔されることなく、イラクの資源と労働力から略奪できるものをすべて略奪している。このところの流行は、私営化、規制撤廃、そしてハリバートンをはじめとする西洋企業の「お気に召すまま」である。イラク人のビジネスは、能力がないわけではないが----それは1991年の米軍による爆撃以降、イラクのインフラを立て直したことに示されている----、ほぼ完全に閉め出されている。

それにもかかわらず、アメリカ合衆国の行為によって改善されたイラク人の生活領域を一つとして挙げることは難しいにもかかわらず、イラクが話題に上り、私が話している相手がイラクにおける米軍の政策を擁護する議論のネタ切れを起こすと、少なくともそのとき、相手は私に次のように聞く。「一つ教えてくれ。サダム・フセインが失脚してうれしいか?」 

私は「いや」と答える。

その相手は「うれしくないのか?」と聞く。

私はさらに「うれしくない」と答える。どうか教えて欲しい。膝が痛くて病院に行ったら、外科医が足をまるごと切り落としてしまったとする。誰かに、「膝の痛みがなくなって、うれしいでしょう?」と聞かれたら、どう思うだろうか? 確かに、イラクの人々には今や、サダムの問題はない。

実際のところ、サダムを支持していたイラク人は少なくなかった。

[以下、話題が変わるので省略します]

ちょうど、日本がかつて行ったと同様の、あからさまな侵略と不法占領。そして、イラク人ゲリラの立場がどうであれ、また、侵略者がどのような口実をつけようと、侵略に同調する観点から抵抗者を「テロリスト」と呼ぶのは、ナチスがフランスのレジスタンスを「テロリスト」と呼んだのと、同じことになります。

日本の首相小泉純一郎が靖国神社を参拝した日に。

投稿者:益岡