「民主主義」の暗雲
いわゆる「スンニ三角地帯」で米軍が続ける無差別大量殺人。タルアファル、アルカーイム、サダー。
「民主主義」の暗雲
アンドリュー・ストロモティッチ
2005年10月10日
ZNet原文
10月2日土曜日の朝、ペンタゴンが公式に「鉄拳作戦」を開始してから数時間後、AP通信は次のように報じた。「土曜日、攻撃ヘリの援護のもと約1000人の米軍兵士がシリア国境近くの小さなイラクの村に突入した。イラクで最もおそれられている戦闘的グループであるアルカーイダの戦士を根絶することが目的だと米軍は述べた」。
シリア国境にあるサダーの町は、以前にも米軍の攻撃の標的とされた。けれども、この週末の攻撃は大規模なものである----男女と子供たった2000人からなる小さな村に1000人の兵士が侵攻した。
世界一洗練された(つまり世界一殺人的な)軍が1000人の兵士を送り込み、それを戦闘機とヘリが援護して、サダーの村に突入して占領し、空襲後に残った家を一戸一戸侵入捜査する。「反乱勢力」を狩り出すという名目で。サダーで米軍が何を見つけるかはわからないが、米軍がサダーに何をもたらすかははっきりしている。大規模な死と破壊。それが、いわゆる「スンニ三角地帯」の町にまた一つもたらされる。
僻遠の飛び地であるこの村を包囲する兵士たちは戦闘機に援護されている。標的の上に停止飛行し、旋回し、高度なコンピュータ探知機を備えた105ミリ高速砲で標的をなぎ倒すC−130スペクター、そして90ミリ砲とさまざまなロケットで人々を挽肉に変えるアパッチヘリなどの戦闘機に。
「サダーはユーフラテス河の岸にある住民約2000人の村で、イラク西部アンバル州のシリア国境から約8マイルにある。この孤立した村には幹線道路が一つあるだけで、200軒の家々が散在している」とAP通信は報ずる。
しかしながら、AP通信は、米軍が、サダーを破壊するかわりに地理的な孤立を利用して隔離し捜査を行わないのはなぜなのかを報じていない(イラクとイラクの人々に民主主義をもたらすという「人道的」ミッションに鑑みてそちらのほうがはるかに人間的だろう)。
この包囲をめぐる重要な事実で報じられていないものはほかにもある。この空襲をどれだけ続けた後で、米軍兵士たちは村に侵攻するのだろう? いったいどれだけの家が破壊されただろう? 何人殺されたろう? この小さな田舎の村でどれだけの武器と戦士が見つかったのだろう?
AP通信はさらに次のように報ずる。「米軍はサダーを閉鎖した。村から13マイル離れたアルカーイムの病院に勤める医師アムマル・アル=マルスーミは、最初の情報によるとどうやら土曜日の攻撃でイラク人が二人負傷したらしいと語った」。
一方でAP自らサダーが閉鎖されていると言っているのにほかの町(アルカーイム)の医師にサダーの犠牲者数を語らせるのは奇妙である。昨年のファルージャのように米軍に包囲された町は、米軍が攻撃を続ける間すべての交通を遮断される。ジャーナリストも援助ワーカも民間人も負傷者も、町の出入りを禁じられるため、犠牲者数を正確に報ずることはできなくなる。
APが民間人犠牲者についてコメントを求めた医師は「最初の情報」によればこの大規模な攻撃で負傷したのはたった二人だと述べた。この数についてAPは疑問も説明も堕していない。情報源についても言及していない。そのため読者は答えよりも疑問の数が増える。この数字は米軍の民間人犠牲者に関する報告だろうか、それとも、閉鎖された村唯一の幹線道路を13キロ行ったところにあるアルカーイムの病院にいる犠牲者の報告だろうか? いずれにせよ、AP通信はそれ以上の説明をしていないため、この主張の妥当性を読者が判断することはできない。せいぜいが信頼できないもので、誤解を招く可能性もある。
こうして、アンバル州のもう一つの村が米軍兵士とイラク人兵士により占領された。米国がなんとしても成功させたいともくろむ憲法国民投票まで数週間もないのに。国民投票は、アンバル州をはじめとするスンニ派が多数を占める地域、さらに爆発寸前の南部では秘訣される可能性がある。南部では先週、バスラ刑務所を襲撃して拘留されていた英軍兵士2名を奪いだした英軍を人々が攻撃している。
イラク民間人の服を着ていたこれら英軍兵士は、イラク人警察官が車に近づいたところ銃撃戦が起き、それから逮捕された。警官2人が殺され、2名の身元を隠した兵士たちは逮捕されて調査と起訴のためにバスラ刑務所に送られた。英軍兵士たちがイラク警察を包囲し、この2名に対するそれ以上の調査を妨害した。バスラでは暴動が発生し、英軍戦車にタイヤが積まれて放火された。英国が警察を汚職で非難し兵士の検査を求める中、そしてポピュリストのシーア派指導者ムクタダ・アル・サドルは英軍兵士がテロ行為を行っていたと発表している中、南部は急速に不安定化している。こうした状況での投票には正当性に疑問が残される。
新イラクの枢要をなすこの憲法を反故にするために必要なのは、イラク西部ではスンニ派が多数を占める州4つのうち3つが否決すればよい。10月4日、まさにこれらの州で米軍兵士が攻撃を続けている中、否をほとんど数学的に不可能することで憲法草案の採択を確実にする手だてがイラク議会で適用された。議会は国際的に受け入れられている選挙基準を定義しなおし、投票集計を投票者ではなく有権者数に基づいて行うこととした。つまり、合法的な結果を得るためには100%の投票率が必要になるということである(平和的な民主体制のもとでも夢物語にすぎない)。
議会は、そうしたあからさまなイカサマ投票を認めることはできないという国連の強硬な批判とスンニ派指導者たちのボイコットの警告により、この手だてを撤回し、投票の通常の解釈は復活した。
これにより健全さが戻ってきたという印象を受けるかも知れないが、国民投票はすでに憲法草案が可決される方に有利に偏っているのである。イラク政府----最も非民主的な方法で選ばれた(候補と党の綱領は投票後に発表された)----は、どの州でも草案反対が過半数を占めただけでは草案は否決されないようにした。実際、国民投票の規則によると、拒否権が発効するためには投票者3人のうち2人以上が投票しなくてはならない。
このしくみにより、ほとんどの州で草案否決はきわめて困難になった。投票集計をこのように解釈する中では、大きな政治的連帯意識のある場合にのみ草案を否決することができるだろう。この投票規則により、米軍はその矛先を実際に草案を拒否する可能性のある地域、すなわちアンバル州のようにスンニ派が多数を占める地域に向けることになった。
今年最大の米軍による攻撃に包囲されているアンバル州----あらゆる指標が否の投票を示している----では、有権者の67%が投票を行う可能性は低い。サラーをはじめ、アンバル州の包囲された地域では、作戦が村々を廃墟にしたあとも占領が続き、重武装した兵士と国家警備隊----草案を通したがっている----が国民投票の「治安」を制圧するだろう。
憲法が適用されると、地域が分断する可能性が生じ、潤沢な石油を持つ北部のクルディスタン、やはり大規模な石油を支配する南部のシーア派政府にわかれ、戦争で疲弊し資源のない西部に残されたスンニ派は大きな破壊をもたらした残忍な占領後、自らの手だけで再建をしなくてはならなくなるだろう。
イラク西部で米軍が軍事作戦を続ける中、そして南部で英軍がテロリズムに関与していたという疑問が大きくなる中、占領下で民主主義など不可能だということがますます強調されてきている。イラクの将来をめぐる来週末の投票は、自らも、現在イラクを覆っている暗雲のもとで民主主義を悪用して政権を手にした米国政府が構想した民主主義の悪用を絵に描いたように示すものになろう。それに抗するものはといえば、テロ行為で脅された選挙民の決意だけである。その選挙民は、自分たちのコミュニティを破壊した治安部隊が監視する中で自らの意見を表明しなくてはならない。アンバル州でもほかの州でも、草案への反対投票は占領----自分の意見をゴリ押ししようとする占領----への反対投票でもあると理解するのに想像力はいらない。
アンドリュー・ストロモティッチは独立ジャーナリスト、ドキュメンタリー政策者、ドロップフレーム・コミュニケーションズの創立者の一人。メールはpumo(atmarkhere)shaw.ca.
投稿者:益岡