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2005/06/12

「ザルカウィとイランとの友好な関係」がいかにデタラメであるか

先日またぞろ英サンデー・タイムズが「ザルカウィは重傷を負ってイランに運ばれた」とかいう妄想記事を流していましたが,それに対する反応。

バーレーンの英字紙の記事。ニュースポータル(ここ)から見つけたものです。

サンデー・タイムズは,全体的にはかなり信頼のできる媒体だと私も思いますが,ことザルカウィに関しては「サダムの大量破壊兵器」報道の再現のようなことをやっているように,私には見えます。

なお,サンデー・タイムズの報道は5月29日付け。
http://www.timesonline.co.uk/article/0,,2089-1632576,00.html

ザルカウィとイランが友好な関係にあるわけがない
Zarqawi, Iran can't be friends
http://www.bahraintribune.com/ArticleDetail.asp?
CategoryId=4&ArticleId=72557

Saturday, June 11, 2005
Mirza Aman - Bahraini Columnist

Nasser:
みなさまこんばんは。既にお聞き及びかと思いますが,今週のサンデー・タイムズで,負傷したザルカウィが治療のためにイランに逃れたという記事が出ていました。これは非常に奇妙なことですよね。シーア派を「背教者」と呼び,シーア派の血を流すことを是とし,シーア派を捕まえて殺すよう支持者たちに言い,自分がやったと自慢げに宣言するテロリストが,シーア派の政府がおさめるシーア派の国に逃れるなどということがあるのでしょうか。

Ali:
これもまた,米英のマスコミで多く見られる,無知の知識不足に基づいた例に過ぎないでしょう。記事の編集者は,ザルカウィが負傷していて隣国に連れて行かれたという報告を耳にして,ザルカウィのような人間を受け入れる隣国といえばイランしかありえないと,イマジネーションだけで判断したんですね。英国政府のプロパガンダ・マシンのおかげで,編集者の脳内では,イランはテロ国家ということになっている。だからイランがテロリストをかくまっているということはいかにもありそうなことだ,ということです。

アンチ・イラン・キャンペーン
Hassan:
ただの無知ではないと思いますよ。アンチ・イラン・キャンペーンの一部ですよ。昨年と一昨年,サウジアラビアに対して同じことが行なわれていますよね。サンデー・タイムズの記事を注意深く見れば,この新聞が作為を持って記事をでっち上げていることがわかります。プロの報道ではまったくありません。サンデー・タイムズでは「イラクの反乱勢力の司令官」のことばを引用していますが,同紙の情報源がザルカウィのイラン移送説を言ったとは書いていません。サンデー・タイムズは,ザルカウィがイランに運ばれたかもしれない(he may have been moved),そして,ザルカウィの支持者たちは手術のためにさらに別の国に移送しようとするかもしれないということを,サンデー・タイムズは考えている(it believes that)と言っています。結論を出したのは新聞です。

それに,情報源がどこにいるのかも書かれていないし,その情報源にはどうアクセスしているのか,情報源はどのくらい信用でいるのかも書かれていない。さらに,記事はその情報源の言ったことに基づくものでもない。記事は編集者の考えと結論を根拠とするものです。彼が考え,信じ,想像したことに基づいています。

Ahmed:
僕も同じ意見です。この一帯の宗教や文化といったことについて無知であるとか馴染みがないとかいったことが原因じゃないですよ。これも,イスラエルとの関係を正常化することに反対し,ブッシュの中東地図に賛成していないアラブとイスラム諸国および組織すべてに対する西洋の陰謀の一部です。

何ヶ月か前に似たような記事を読みました。残念なことに,中にはアラブの新聞もありましたが。イランの軍人が,ザルカウィ一派に設備を提供しているのはイランだと発言しただとか,ザルカウィ一派はヴィザなしでイラン入国ができると発言しただとかいう,ナンセンスで馬鹿げたことがいっぱい書いてありました。何でも,ザルカウィ一派は,国境の特定の場所を通ってイランとの行き来が簡単にできるというのですね。北はハラブチャ(Halabcha)から南はエラム(Elam)まで。

さらに驚いてしまうのは,これらの情報は,あるアラブの国の情報に基づいているというんですが。

Hassan:
それで思い出したんですけど,昨年,あるアラブの国の情報部と米国のCIAとペンタゴンとの間でちょっとありましたよね。あるアラブの国の情報部が,ザルカウィはヨルダンからテヘランまで移動し,テヘランで支援物資を受け取り訓練をして組織化している,そしてそれにはもちろんイラン政府の支援がある,それは確実だ,断言すると言ったんです。それだけでなく,そのアラブの国の情報部は,タリバンとアルカイダに対する米国の軍事作戦の間に,ザルカウィは負傷し,アフガニスタンからイランに送られそこで手当てを受けて,それからトルコを経由してヨルダンに入ったとも言っている。

しかしCIAはそのアラブの同盟国情報部の話を信じようとはしなかったわけです。その情報部の言っていることが正しくザルカウィが実際にイランにいるのであれば,ザルカウィはイラン政府のことを知らないのだろうとCIAは言ったんですよ。さらに加えて,CIAは,ザルカウィが本当にイランにいるのならば,イラン当局に逮捕されないよう隠れているだろうと言っている。ザルカウィとイラン当局が友好な関係にあるわけがないとも言っています。ザルカウィはシーア派を憎悪し敵意を燃やしているのだから,と。

ペンタゴンのブリーフィングでこの問題が持ち出されたとき,ペンタゴンのスポークスマンは,イラン政府上層部がザルカウィを支援しているというのは十分な裏づけのある話ではないが,ザルカウィがイランにいて,現地の各所に友人を持っているという可能性を米国は完全に除外することはできない,と述べて返答しています。

Ali:
つまりこれらの記事はすべて,根拠がない捏造だということですか? では情報部とか新聞とかがなぜこのようなことをするんでしょう? 西洋のマスコミの中立性・客観性・プロフェッショナリズムはどうなってしまっているんでしょう?

Hassan:
その理由を知りたいのであれば,ザルカウィとイランはつながっていると最初に言われたときに戻ってみればいいでしょう。2003年のことでした。バグダードが陥落してすぐ後のことです。ブッシュ政権はイラク侵略を正当なものであるとしようとしていましたが,イランについても同じことをするつもりでいた。そして,ザルカウィはサダム・フセインとビンラディンとアルカーイダとをつなぐリンクだとしていた。

当時のパウエル国務長官もブッシュ大統領も,ザルカウィはサダムとビンラディンの間のメッセンジャーの役割を果たしていると言っていましたよ。パウエル長官は,ザルカウィは2002年にイラクに入って治療を受け,そのときに活動拠点を確立したと述べています。もちろん,サダムの支援のもとに,と。

イランに対するキャンペーンに理由を与えることを目的として,この問題にイランを引きずり込むために,パウエル長官とブッシュ大統領は,ザルカウィはイランを,イラクとアフガニスタンを結ぶ点として利用しているのだと言いました。それだけではない。ブッシュ政権は公式に,ザルカウィを米政府に引き渡すよう,イランに要請しているのです。その理由は,米政権の言うところでは,ザルカウィはヨルダンでの米国の外交官殺害の責任を負う人物であるからとのことでした。

あるときのペンタゴンのブリーフィングで,ラムズフェルド国防長官は,ザルカウィはイランにいると確信していると述べています。イラン政府がザルカウィの身柄を米国に引き渡さなかった場合には,米国はイランに対して開戦するのかという質問が出ると,ラムズフェルド長官は,それを決めるのは私ではなく大統領だと答えています。

メディアの倫理はどこに
Ahmed:
メディアの倫理もメディアの信用も,今では跡形もなく消え去って,利害と圧力とに置き換わってしまっています。大統領が国民をスパイしていたという理由で大統領を失脚させたマスコミが【訳注:米国のウォーターゲート事件を指すと判断される】,嘘をつき続け国民を欺き続けてきた大統領に対しては何もしない。戦争をするための理由や口実を大統領がでっち上げてきたことを問うのではなく,マスコミは大統領の行動に理由を与えています。外国の利益のために外国の領土でアメリカ人の生命を犠牲にするといった行動にさえも。

自由などというものはこれらの国々の土地で暮らしている人々だけに限られたもので,報道の自由というものも中立性もまた,これらの国の土地で暮らしている人々だけに限られたものです。英米のマスコミは,警察が犯罪者を追跡しているときに殴って怪我をさせてしまったときには大きく声を上げ,ブッシュやブレアの頭痛の種となる。しかし私たちアラブの人々がイラクで意図的に殺され拷問されているのは何故かを,ブッシュやブレアに問うことはない。マスコミは,彼らが「人権蹂躙」と呼ぶ事態がサウジアラビアで起きているのにブッシュやブレアは何もしないと責めますが,ブッシュやブレアが,人権どころかありとあらゆる神の掟を破り,国際法を,憲章を,価値観を破っているときには何も言わない。

もしグアンタナモの拷問キャンプがアラブやイスラムの国にあったとしたら,米英のマスコミは何をするでしょうね。


……というわけで,何人かの“対談”の形式での記事ですが,そのコンテクストはわかりません。掲載されているバーレーン・トリビューンのトップページから見ても,確認できるのは,この記事がComments(社説・論説)のところにあるということだけです。

記事を書いたMirza Amanの名前でウェブ検索すると,いろいろと記事がヒットしますので,興味がおありの方は読んでみてください。

なお,上記訳文で「マスコミ」という語をあてた部分は,言語ではthe pressです。見た目を読みやすくするために,改行はかなり多く加えてあります。

ザルカウィという男は,毎度毎度絶妙なタイミングでメディアのトップ記事を飾る,ある意味「セレブ」じゃないかと私は思っています。

また,英サンデー・タイムズは,5月15日に「ザルカウィ重傷」の記事を出していますが,それについては私は個人ブログの方であらかたぶちまけてあるのでぜひお読みください。

いずれにせよ,ザルカウィについてはこれまでもさんざん言及してきました。内容の濃いめのものだけ,いくつかリンクを。

「ザルカウィ:ヨルダンから来た謎のサディスト」,2004年9月23日(ま)
……パトリック・コックバーン記事。「今年2月から、バグダードの米国関係者は、傍受した彼のメッセージを引用して、イラクへのアルカーイダの関与のもととしてザルカウィの存在を強調した。基本的にこれは、プロパガンダである。米国は、ずっと前から、占領に対するレジスタンスを、サダム・フセイン支持者かアルカーイダに関係する外国人かどちらかであると見せたがっていた。あらゆる記者会見の場で、米国報道官はザルカウィの名前を口に出す。まるで、ゲリラ戦を煽っているのが彼一人であるかのように。」

「ザルカウィ」,2004年10月28日(い)
……BBCの記事で「ザルカウィ」と「ファルージャ」が結び付けられたのはいつなのかを調べてみた。

「考えられないようなことがノーマルなことになっている(ジョン・ピルジャー)」,2005年1月7日(い)
……ピルジャーによる記事(2004年11月12日)。メディアの言うことと言わないことについて。

「ザルカウィは内戦を起こそうとしているのか?」,2004年10月31日(ま)
……ザルカウィに言わせると,シーア派は「取り除き難い障害、闇に潜むヘビ、奸智にたけた悪辣なサソリ、スパイを働く敵、心にしみ込む毒である。……じっくりと観察する人々や関心を持った見物人ならば、シーア派の教義は、気味悪く迫ってくる危険であり、真の問題であることに気付くだろう。『奴らは敵だ。注意しろ。奴らと戦え。神かけて、奴らは嘘をつく』。歴史のメッセージは現在の状況という証言により証明された。それは非常に明確に、シーア派の教義はイスラムと何の共通点もないことを示している」のだそうです。

「選挙と「死の部隊」:イスラム法学者協会聖職者殺害」,2004年11月28日(ま)
……「スンニ派の聖職者/法学者殺害を行なっているのはザルカウィである」との説について,「アル=ザルカウィあるいは彼の仲間が殺害を行なった可能性については、まず、それがアル=ザルカウィが米国の陰謀が作り上げた存在や道具ではなく実際に存在する人物であることが前提とされている。そして、アル=ザルカウィが存在するならば、占領の終了と米国が捏造した選挙へのボイコットを呼びかける彼のグループの見解と意見を同じくする聖職者を殺すことが彼の利益になるというのは、馬鹿げた推論であろう。」

「『ファルージャにイラン人が』って何?」,2004年11月14日(い)
……「ファルージャにイラン人がいた」という言説が,一瞬だけあったのですよ,昨年の11月の総攻撃にときに。

「ザルカウィの潜伏先」とされて破壊された/されている都市は,少なくとも2つ――ファルージャ(2004年11月),アル=カーイム(2005年5月)およびその近郊の村や町。

アフガニスタンは「ビン・ラディンの潜伏先」として爆撃されました。

投稿者:いけだ

土井敏邦さんのドキュメンタリー『ファルージャ2004年4月』について

購入方法,英文での紹介ページ(私が急ごしらえで作ったもの),トラバのお願い,など。
※bloggerではトラバができないので,ここではトラバに関する記述には取り消し線を引きます。トラバは本家:teanotwar.blogtribe.orgにお願いします。

まず,土井敏邦さんのサイトはhttp://www.doi-toshikuni.net/です。

ドキュメンタリー・フィルム『ファルージャ2004年4月』のフライヤー(ちらし)は,↓のページにあります。
http://www.doi-toshikuni.net/blog/archives/000025.html

1)購入方法:
土井さんのドキュメンタリー・フィルム『ファルージャ2004年4月』の販売は,当方では行なっておりません

ご購入のお問い合わせなどは,下記メールアドレスまでお願いします。
falluja2004(at)hotmail.co.jp
(当ウェブログ運営者2名のアドレスではありません。)

フォーマットはDVDまたはVHS。価格は個人購入の場合3500円。団体購入(上映会などを行なう場合)は10000円。日本語字幕,英語字幕の2種類あり(言語としては全編アラビア語+少しだけ英語)。

下記ページ(@パレスチナ情報センターさん)に簡潔でわかりやすい記載があります。
http://palestine-heiwa.org/note2/200505221559.htm

また,ウェブショップ「通販あれこれ」さんでも販売されています(送料500円)。
http://www.rakuten.co.jp/arekore/573996/1074912/

2)英文での紹介ページ(含:英語版フライヤーの写真):
急ごしらえですが,普段英語でコミュニケーションを取っている友人・知人に知らせたかったので,土井さんのドキュメンタリー『ファルージャ2004年4月』について英語で簡単な説明を書き,英語版のフライヤーがどんなものかを説明する目的でデジカメで撮影した画像を添えて,ウェブページにまとめてあります。

英語は読めるが日本語は読めないという人に説明したい場合に,リンクするなどしてご利用ください。
http://www.geocities.jp/nofrills_web/translation/fal_doc_d/index.html

3)トラックバックのお願い:
土井さんのドキュメンタリー映像『ファルージャ2004年4月』について,トラックバック機能のあるウェブログで記事を書かれた方は,ぜひ当方までトラックバックをお願いします。

トラバはこの記事に飛ばしてくださってもかまいませんし,以下に列挙する過去記事に飛ばしてくださってもよいです。どの記事に飛ばせばよいのかわからない場合は,この記事に飛ばしておいてください。

記事1:http://teanotwar.blogtribe.org/entry-5dd74d3d180d0ea90d44df1867a4b533.html
2005年5月19日,いけだ(ハンドルはnofrills)投稿記事。18日に東京で行なわれた土井さんのドキュメンタリーの試写会の直後に書いたものです。

記事2:http://teanotwar.blogtribe.org/entry-56c37bc3778a3025356ad9eb4748a105.html
2005年5月21日,益岡賢さん投稿記事。18日に東京で行なわれた土井さんのドキュメンタリーの試写会の後に書かれたものです。

記事3:http://teanotwar.blogtribe.org/entry-09ba4cbbfc0ca80b772f2eeba114cef7.html
「記事」というより「写真」だけのエントリです。日本語のフライヤーと英語のフライヤーの組み合わせ写真3点。

投稿者:いけだ