死者の数はますます増えている
死者の数はますます増えている
モハメド・A・サリー
2006年11月25日
Electronic Iraq 原文
アルビル発(IPS)。木曜日、米軍が2003年にイラクを侵略して以来、一日単位では最悪の殺人により、バグダードは揺れている。非常に増えている犠牲者数の中でも、最大の犠牲者が出た。
木曜日の朝、大量の自動車爆弾と迫撃砲の攻撃により、バグダードのシーア派が暮らすサドル地区で、150人以上の人が死亡した。
すでに、犠牲者の数は激増していた。国連の報告は、今年10月、暴力の犠牲者数は過去最大となったことを示しているが、11月は、さらに悪い月となることが確実に思われる。というのも、木曜日の爆破事件の前に、すでに11月の犠牲者数は10月の同時期よりも高いものだったのだから。
11月22日に発表された報告の中で、国連イラク支援ミッション(UNAMI)は、今年9月と10月に7054人の民間人が殺されたと述べている。そのうち3709人は10月に殺された。これは、2003年3月に米軍がイラクを侵略して以来、最も高い死者数である。
7月と8月に殺されたイラク人の数は6599人だった。それと比べると、9月と10月の暴力は大きく増加していることがわかる。
「イラクの安全状況は恐ろしく危険です」とアルビルの政治アナリスト、バッサム・アリはIPSに語った。「この国ではセクト間の全面戦争が起きていますが、メディアはそれを完全に世界に伝えることができていません」。
彼は、イラクの死者数が増えていることについて、「それは、米国がイラクで勝利を収めることができないことを最もはっきり示している証拠です」と述べる。彼はまた、近隣諸国が「セクト間の問題を拡大するねらいで」流血沙汰を煽っていると批判する。
暴力がかつてないほど激化した中で、イラク人の多くは、近い将来状況が改善されるかも知れないという希望を失った。
22歳のムハナド----身の安全から姓は明かさなかった----は、2年前、武装グループから殺害脅迫を受けて、北部のクルディスタンに逃げ出した。彼は、南部の暴力を逃れて比較的平穏なクルディスタンに逃げ出した推定5万人の国内避難民の一人である。
「こんな有様が続くなら、状況が改善されていつか家に戻れるなどという期待はまったく持てません」と彼は言う。「イラクの状況が良くなってくれればと思いますが、そんな可能性があるかどうかわかりません。たんなる希望に過ぎないのかも知れません」。
セクト的暴力がイラクを分断しているこのとき、政治の領域も筋が通っているようには見えない。
政府のスンニ派政治家は、すでに政府から脱退すると言い始めている。というのも、シーア派の首相ヌーリ・アル=マリキがシーア派民兵を押さえ込むために十分な対処策を採っていないと考えているからである。
木曜日の爆弾事件のあと、シーア派指導者の多くが、政府はスンニ派ゲリラを十分チェックしていないと言い始めた。セクト間の暴力は、さらに激化する可能性が高い。
シーア派指導者の中には、テロリズムに対して曖昧な立場をとり、政府の利益に反する行動をしているとしてスンニ派指導者を非難する者たちもいる。シーア派が牛耳る内務省は、先週、スンニ派の宗教指導者ハリス・アル=ダーリに対する逮捕状を発行した。
また、シーア派主導の政府と、クルド人の同盟者たちとの間にも不信が広がっている。クルド人は、政府が、キルクークのように豊富な石油を有する、人種的には入り交じった都市の位置づけといった未解決の問題を解決するための手だてをとっていないと述べる。シーア派は、イラクが治安上・政治上の行き詰まり状態にあるときに、クルド人は要求が過ぎると批判する。
バッサム・アリは、国内の不和は沈静化しないだろうと考えている。「というのも、暴力は犠牲者を生み、犠牲者は報復の殺害を行い、その結果、虐殺のサイクルが続き、それが日々悪化するからです」。
暴力が激化する中で、アリは、イラクを人種的な地域で分割することが実際的な解決だと考えている。それによって、対立するグループをお互いに引き離しておくことができるのだから。こう考える人々の数は増えている。
「一体としてのイラクが存在する余地はないと確信しています」と彼は言う。「この状況に対して解決策がないのであれば、傷は深まるばかりですし、状況全体がますます手に余るものになるでしょう」。
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気になる表現があります。「米軍が2003年にイラクを侵略して以来」最悪の死者数、というもの。
実際、イラン・イラク戦争下、湾岸戦争下(及び直後のシーア派・クルド人の蜂起時)にサダム・フセイン政権が行った弾圧と虐殺行為を別にすれば、これほどの暴力は、「米軍が2003年にイラクを侵略する」前には、なおさらもって見られなかったものです。
この記事で言及されている国連の報告をめぐって、壊れる前に・・・さんは、次のように述べています。
こうなることは最初から分かっていて、心ある人々は世界で「武力で平和は築けない」と強く訴えたわけだけど、3年前も今も、世界は歴史から教訓を学べないお馬鹿さんたちに牛耳られている。
国際法上完全に違法な米国によるイラク侵略、さらに、日本の憲法に違反した自衛隊の派遣に反対し、それを批判すると「それではサダム時代の方がよかったというのですか」と言う人々がいます。
はやりの反知性的な疑似質問に過ぎないのですが、同じレベルでも、問うべきは「それではサダム時代よりも今の方がいいというのですか?」と問い返すべき状況が、イラクにはあります。
日本や西側のメディアでは、現在のイラクの状況を、背景を無視して「宗教間の暴力」と一言に矮小化しがちですが、それ以前は人々のレベルでは比較的仲良く暮らしていたことを考えると、今回の「宗教間暴力」なるものは、はっきりと、米軍のイラク侵略に対応して新たに作り出されたものです。
上記の反知性的な疑似質問とその裏返しの質問について。本来は、そこで提出された偽の二項対立ではなく、正論を問うべきでしょう。
「イラクの人たちは、本当は何を望んでいた/るのでしょうか」
「イラクの人たちの「ため」というのなら、本当に望ましいことは何なのでしょうか」
米国が雇い入れて語らせたイラク人の言葉以外のイラクの人々の声は、米国政府や日本政府、大手メディアからは、ほとんど聞こえてきません。
それなしに、民主主義とか自由とか自分勝手な言葉を叫び、嘘の「証拠」をごり押しして他国を侵略するのは、単に、最悪の国際犯罪に過ぎません。
よりよい状況を構想し、それに向かう手段を考えることを放棄した人々からは、「武力で平和は築けない」という主張には「リアリティがない」といった言葉が投げかけられます。
けれども、すでにあるもの、現在あるものだけが「リアリティ」ならば、それは世界の貧困に過ぎません。今は現実にはないけれど、よりよいもの、非現実的ではあるけれども目指すべきものの現実化に向けてことをなさないならば、政治などまったく必要ないということになるでしょう。
今は、まったく必要のない政治家が跋扈し、閑居して不善をなしている状況が蔓延しています。
投稿者:益岡