コンドリーザ・ライスの発言とアブグレイブ拷問、ファルージャ、侵略戦争などについて、「デモクラシー・ナウ!」の報道を紹介しつつ。
ライスはアブグレイブの囚人虐待を拷問と呼ぶことを拒否
2005年1月19日
デモクラシー・ナウ!原文
コンドリーザ・ライスは、国務長官への就任聴聞で、アブグレイブ収容所での出来事を拷問と述べることを
拒否した。彼女はまた、アルカーイダに関係している個人にジュネーブ条約は適用されないとも主張した。
聴聞の抜粋を紹介し憲法専門家デビッド・コールの見解を聞く。
ブッシュ大統領が国務長官としてコリン・パウエル将軍の後継者に指名したコンドリーザ・ライスは米国上
院外交関係委員会で9時間半以上の質問を受けた。ライスの就任聴聞初日は夜までかかることとなった。終
わったときには、委員長でインディアナ州選出共和党のリチャード・ルガールとコンディ・ライス、そして
11月の選挙で上院議員に復帰したばかりのジョン・ケリー上院議員だけが残った。イリノイ州選出バラッ
ク・オバマが上院に姿を現した最初の大きな出来事でもあった。
ライスと民主・共和党上院議員のやりとりのほとんどは社交的であまり対立的ではなかった。拷問と国際法
、イラク侵略前に政府がイラクに大量破壊兵器があると主張したことについて、またベネスエラと大統領ウ
ーゴ・チャベスについてライスがしたコメントについて厳しい質問が浴びせられた場面もあった。民主党を
代表して攻撃の中心となったのはカリフォルニア州選出上院議員バーバラ・ボクサーだった。もう一人のカ
リフォルニア州選出上院議員ディアンヌ・ファインシュタインが質問開始の際にライスを紹介したことを考
えると興味深い。ボクサーは、ブッシュ大統領の勝利に関する選挙委員会の確認に対する疑問に署名した民
主党上院議員でもある。以下ではボクサーとライスが交わした政府によるイラク侵略正当化をめぐるやりと
りを聞くが、ますはボクサーがライスに行なった拷問についての質問を紹介する。
- バーバラ・ボクサー上院議員(カリフォルニア州選出民主党)が2005年1月18日拷問について国
務長官に指名されたコンドリーザ・ライスに質問する。
- デビッド・コール:ジョージタウン法律学校教授で「Enemy Aliens: Double Standards and Constitut
ional Freedom in the War on Terrorism」の著者。
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エイミー・グッドマン:これからボクサーとライスが交わした政府によるイラク侵略正当化をめぐるやりとりを聞きますが、ますはボクサー上院議員がライス博士に行なった拷問についての質問を紹介します。
バーバラ・ボクサー上院議員:2004年7月1日、アブグレイブでの虐待についてコメントしたときあなたは、そのまま繰り返しますが、アブグレイブ収容所で行われたことは米国を表しているわけではないと言いました。我らが国は自由を信ずる情け深い国で、米国政府は起こったことについてとてもすまなく思っているなどなど。これらは極めて妥当だと思います。さて、先週木曜日、上院が満場一致で米国人諜報要員による極端な尋問方法の利用を制限する修正案を採択したとき、私たちは、あなたがボルトン氏とともに議会委員会のメンバーに手紙を書き、その文言を最終法案から削除するよう求めたことを知りました。不幸にして、あなたの求めに応じて委員会メンバーは削除してしまったのです。さて、[私に見えるようにそれをもってきてもらえますか?]、法案からあなたが削除したがり削除された文言を読み上げたいと思います。「一般に」----ちなみにこれはジョー・リーバーマンとジョン・マッケインが書いたものです。ジョン・マッケインは拷問の何であるかを知っているので、ジョー・リーバーマンとともにこれを書いたのです----「一般に、いかなる囚人に対しても、合州国憲法、法、合州国が批准した条約で禁止されている、拷問あるいは残忍、非人間的あるいは品位を傷つける扱いあるいは懲罰を行なってはならない」。とても明確で、スマートで、民主共和の党を問わず満場一致で上院で採択されたものです。それから手紙が来て、新聞によると、あなたの求めで、そしてホワイトハウスの要求で、議会の担当者たちが米国の諜報要員に極端な尋問方法を用いることを禁止する新たな制限となるはずだったこの法的手段をスクラップにしてしまったのです。10月に送られホワイトハウスが先週水曜日に公開した議員に対する手紙の中で、国家安全保障顧問コンドリーザ・ライスが議会が採択した法律に反対を表明しています。その理由を引用すると、この法律は「適用されるべき法律と政策のもとで現在は受ける資格のない法的保護を外国人囚人に与える」からだと言っています。私が理解するところでは、今回の法律は法律を再確認したものだったのですが。
コンドリーザ・ライス:私ども政府の見解では、なによりもまず、その点は大統領がご署名なさった防衛承認法で取り扱われています。
バーバラ・ボクサー上院議員:これは軍にではなく諜報に関わることですから、防衛承認法の対象範囲ではありません。
コンドリーザ・ライス:第二に、でもこの法はすべての政府機関を対象としています。
バーバラ・ボクサー上院議員:諜報要員だけに関することです。続けて下さいな。
コンドリーザ・ライス:すべての政府機関が防衛承認法で対象とされていますから、諜報も対象となっています。
バーバラ・ボクサー上院議員:そんなことはありません。
コンドリーザ・ライス:私どもの見解では。第二に----私たちはこれまで----一定の保護を、これらの保護を受けていなかった人々にこれらの保護を適用したくはありません。そして、ジュネーブ条約はアルカーイダのようなテロリストに適用されるべきではありません。適用できません。適用すればジュネーブ条約の拡大解釈になります。
エイミー・グッドマン:コンドリーザ・ライスが国務長官就任聴聞でバーバラ・ボクサー上院議員に質問を受けているところでした。今ジョージタウン法律学校のデビッド・コール教授と電話がつながっています。コール教授は「Enemy Aliens: Double Standards and Constitutional Freedom in the War on Terrorism」の著書があります。デビッド・コール、ようこそ。コンドリーザ・ライス博士が送ったこの手紙とその問題について説明していただけますか?
デビッド・コール:もちろんです。エイミー。2002年8月、法律諮問局(Office of Legaul Counsel)が誰もが注目した覚え書きを書きました。これは、できるかぎり拷問の定義を狭め、CIAの尋問員が強制的手段を使うことができるようにしたものです。例えば「水板」といったものを、個人に対して。そして、彼らはまた、「水板」といった手段を具体的に承認する機密覚え書きCIAに出していたのです。それを明らかにするものです。これらの覚え書きは公開されていませんが、それについての報告はなされています。基本的に、現在は公式の政策が一方で、もう一方で秘密の非公式の政策がある状況です。ライス氏がこの新たな法律に反対しているのは、それが私たちの公式の単一の政策に全員が従わなくてはならないことを求めているからです。したがって、彼女が求めているのは、我々は拷問に反対すると口でいいながら、まあまあ、CIA要員には世界が拷問であると理解している手法の行使を認めようではないか、何と言っても我々がそれを拷問ではなく冷酷で非人間的で品位を傷つける処遇と定義したのだから、そして我々はジュネーブ条約でカバーされてないふりをすれば人々にそれをできるのだから、という偽善を続けたいということです。
エイミー・グッドマン:彼女は、返答の中でとても率直です。ジュネーブ条約はアルカーイダのメンバーには適用されないと言っています。
デビッド・コール:実際、アルカーイダのメンバーにはジュネーブ条約は適用されないと言う真面目な法的議論があります。しかしながら、実際の所、ジュネーブ条約は米国が戦争を行なってきた多くの対象に適用されないという法的議論もあるのです。それにもかかわらず、我々は、人々をジュネーブ条約で保護されているかのように扱うと主張して来ました。つまり、拷問や残忍、非人間的および品位を傷つける扱いを誰に対してもしないと言ってきたのです。ジュネーブ条約に署名した国家のもとで組織された軍であるかどうかにかかわらず。ですから例えばベトナムでは技術的にはジュネーブ条約で保護されているとは言えない非正規軍と闘ってきました。彼らはジュネーブ条約に署名していなかったのです。彼らはジュネーブ条約に従いませんでしたが、我々は彼らの扱いに関してジュネーブ条約を拡大適用したのです。今回の戦争まではその立場を保っていました。そして今回政府はジュネーブ条約をアルカーイダやタリバンの人々には適用しない、というのも強制的な尋問技術を使いたいからだと決めたのです。それがこの坂を滑り落ちてしまった理由です。アブグレイブの写真で明らかになったような。
エイミー・グッドマン:デビッド・コール、ありがとうございます。ジョージタウン法律学校教授で「Enemy Aliens: Double Standards and Constitutional Freedom in the War on Terrorism」の著者デビッド・コールでした。
興味深い言説の事例なので、紹介します。アブグレイブの拷問スキャンダルが明るみにされたとき、いくつかのレベルで奇妙な議論がなされました。一つは、それが「虐待」であって拷問ではないとの主張があったこと。もう一つは、我々米国はこの拷問により道徳性を失ってしまったとの主張があったこと。
それに対して、イラクでは少なからぬ人々が、アブグレイブ・スキャンダルが明るみに出されたのは、当時ファルージャで米軍が行なっていた体系的な民間人の虐殺や射殺から世界の目を逸らすためではないかとの疑念を提起していました。
アブグレイブをはじめイラクの様々な収容所で米軍が被拘留者(その多くは恣意的に拘留された民間人です)に対して犯した行為は、以下の定義に完全にあてはまる、そして法解釈上も拷問とされているものです:
ICC[国際刑事裁判所]規程7条2項
拷問とは、身体的であるか精神的であるかを問わず、抑留中または被告人として統制下にあるものに対し、厳しい苦痛または苦悩を意図的に加えることを言う。ただし拷問には適法な制裁からのみ生じ、それに固有のもしくはそれに付随する苦痛もしくは苦悩は含まれない。
拷問禁止条約第1条 84年採択・87年発効
第1条:この条約の適用上、拷問とは、身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず、人に重い苦痛を故意に与える行為であって、本人もしくは第三者から情報もしくは自白を得ること、本人もしくは第三者が行なったかもしくはその疑いがある行為について本人を罰すること、本人もしくは第三者を脅迫しもしくは強要することその他これらに類することを目的としてまたは何らかの差別に基づく理由によってかつ公務員その他の公的資格で行動するものによりまたはその扇動によりもしくはその同意もしくは黙認の下に行われるものを言う。拷問には合法的な制裁の限りで苦痛が生ずることまたは合法的な制裁に固有のもしくは付随する苦痛を与えることを含まない。
一般に国際人権法では拷問の執行者を公的立場にあるものとしており、国際人道法では公的であるかないかを問いません(が人権法と人道法の概念は次第に接近してきています)。
第二点目。インタビューを受けたデビッド・コールも何ら歴史的証拠を挙げずに「これまで米国はジュネーブ条約を誰に対しても適用してきた」と述べていますが(ジュネーブ条約の適用範囲をめぐる法的解釈の曖昧性についてを脇に置いても)この発言は全く事実に反しています。南ベトナムで民間人を「戦略村」(強制収容所)に収容し、恣意的な殺害を政策として行なってきたことは明らかにされていますし、ソンミ村虐殺が孤立した事件でなかったことも証拠とともに明らかにされています。
さらに米軍やCIAが直接でなくても米州軍事学校で拷問手段を体系的に教えてきたこと、また例えばウルグアイのダン・ミトリオーネのように公的立場から拷問を専門に行なってきた人物なども多々おり、ジュネーブ条約や国際人道法・国際人権法を遵守してきたとは言えません。
第三。2005年11月ファルージャ。1945年8月広島・長崎等、米軍は大規模な空爆により、民間人を含めた無差別殺害を犯してきました。国際法の立ち後れにより、しばしばないがしろにされていますが、膨大な人的犠牲を生み出してきたものです。以下の言葉はそれを的確に表現しています。
「街や都市、村の無差別破壊」は以前から戦争犯罪であったにもかかわらず、飛行機による都市の空爆は処罰されないばかりか、実質的に非難の対象にすらなってこなかった。これは、現代国際法のスキャンダルである。このことを忘れてはならない。空爆は、国家テロリズムであり富者のテロリズムである。過去六〇年間に空爆が焼き尽くし破壊した無辜の人々の数は、反国家テロリストが歴史の開始以来これまでに殺害した人々の数よりも多い。この現実に、なぜかわれわれの良心は麻痺してしまっている。われわれは、満員のレストランに爆弾を投げこんだ人物を米国の大統領に選びはしない。けれども、飛行機から爆弾を落とし、レストランばかりでなくレストランが入っているビルとその周辺を破壊した人物を、喜んで大統領に選ぶのだ。私は湾岸戦争後にイラクを訪れ、この目で爆撃の結果を見た。「無差別破壊」。イラクの状況を表わす言葉はまさにこれである(C・ダグラス・ラミス 政治学者)。
第四。ニュルンベルク原則に照らせば、「侵略戦争を始めることは、ただの国際犯罪ではない。すべての悪をその内部に蓄積しているという点において、他の戦争犯罪とは区別される至高の国際犯罪である」。米国によるイラク侵略は、ナチスのポーランド侵略や日本の中国侵略、米国のベトナム侵略などと同様、至高の国際犯罪です。それを忘れたかのように「米国はジュネーブ条約を遵守してきた」(してこなかったのですが)という前提で今回のことを異例であるかのように語るのは、たとえて言うと、殺人犯について殺人そのものの罪を問わずに、殺害方法が人道的であったか残忍であったかという技術的問題だけがポイントであるかのように考えることと同様、倒錯していると言わざるを得ません。
コンドリーザ・ライス氏は、スマトラ大地震の際、次のように述べています:
[F]irst of all, I do agree that the tsunami was a wonderful opportunity to show not just the U.S. government, but the heart of the American people. And I think it has paid great dividends for us.
何よりもまず、今回の津波が、米国政府にとってだけでなく米国民の心を示すための素晴らしい機会だという点にまったく同意します。津波は私たちに大きな恩恵を与えてくれました。
自己顕示欲と自己満足のためだけに他人の不幸を喜ぶこの性根は、展開して、他人の不幸がない場合にはまず自分たちで作ろう、それを救うために、という振舞いに至っています。
投稿者:益岡
2005-01-21 22:34:54